"締め出された新社長" 第18話
私は駆け寄り、のドアをけた。
専務は乗り込む直、ふとを止め、私に向き直った。 その顔には、先ほどまでの苛烈な厳しさは消え、どこか疲れたような、だが温かいが宿っていた。
「……直君」
「はい」
「親父さんは、違えたよ」
松井専務は静かに言った。
「社員を締めして荒野に放りすなんて真似は、ただの乱暴な実験だ。だがな……親父さんがつだけ正しかったことがある」
専務は私の肩に、ポンといを置いた。
「君を社に選んだことだ。……あいつの息子にしては、しばかり骨がある」
のドアが閉まり、クラウンは滑らかなエンジン音を残してっていった。
には、たいだけが残された。 神はアスファルトのに座り込んだまま、子供のように泣きじゃくっていた。 奥田はちがり、インキで汚れた自らの両を、まるでまれて初めて見るかのようにじっと見つめていた。
階の窓からは、の社員たちが息を呑んでこちらを見つめている。 彼らは目撃したのだ。 会社が守ってくれるはずだった絶対な聖域が崩壊し、自分たちの犯した罪に対して、酷な現実の請求が突きつけられた瞬を。
だが、その空気は、昨までの腐った絶望とは違っていた。 痛みはあった。巨な代償もあった。 しかし、彼らの目から「誰かが何とかしてくれる」
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という甘えのが、完全に吹きんでいた。
私はのに歩み寄り、静かに言った。
「神。奥田さん」
が、恐る恐る私を見げた。
「て。邪を引く」
私はにを差し伸べなかった。 ただ、自らのでちがるのを待った。 は震える膝にを当て、にまみれたズボンを払うことも忘れて、ゆっくりとちがった。
「……社」
神が、掠れた声で私を呼んだ。 その響きには、昨までの「のにいる頼りない代目」を見るは微もなかった。 痛烈な現実のにちはだかり、自分たちを逃がさず、しかし見捨てずに対峙させた、正真正銘の「リーダー」に対する響きだった。
「曜まで、はある」
私は言った。
「葉版に提する再発防止策と、割の売減をどの案件で補填するかのリカバリープランを作る。……神、営業の数字を全部洗いせ。奥田さん、輪転の稼働効率を見直して、コストを極限まで削る程表を引いてくれ。私もので伝う」
「はい……!」 「わかりました……!」
は々と私に礼し、通用のドアをけてへと入っていった。 カチャリとドアが閉まる。
、面に取り残された私は、く、い息を吐きした。 張り詰めていた緊張が解け、膝がガクリと震えた。 千百万の負債。割の売減。 とてつもない嵐が、これからの柳印刷を襲うだろう。
だが、歯は確かに、彼ら自の力で噛みい始めていた。
ふと、通りの向こうに線をじた。
の敷の、向かいの歩の角にあるの。 そこに、台の軽自がまっていた。 そして、そのから、のついたウインドブレーカーを着て、目にキャップを被った老が、じっとこちらを見つめていた。
父だった。
伊豆に釣りにったはずの父、柳隆が、そこにっていた。 には釣竿などなく、ただ固く拳を握りしめ、で泣き崩れた幹部たちと、そのに仁王ちしていた私の姿を、微だにせず見つめていた。
その顔は、目からでも分かるほど青ざめ、苦悶に歪んでいた。 全能の神を気取り、息子と社員を試すために仕掛けた「華麗な実験」が、千百万円の巨額の損失と、の老舗の板を傷つけるという無惨な現実の破綻を招いたこと。 そして、その沼の底から、息子が自らのでいがろうとしている姿を、父はただ、打ちのめされたように見つめていた。
線が、真正面からぶつかりった。
私は逃げなかった。 キャップの奥の、老いさらばえた父の目を、真っ直ぐに見据え返した。
目の曜。 柳印刷の敷を包む空気は、週の初めとは完全に変していた。
午。 え切ったの朝の空気に、く唸るような鳴りが混じっていた。
階の印刷現からだった。 菱製の型オフセットが、な律を刻みながら回転している。