"締め出された新社長" 第12話
を過ぎた男の、すがるような懇願だった。 社員たちの線が、祈るようにさなスマートフォンに集した。 誰もが、いつものあの鳴り声を待っていた。 「バカ野郎! 俺が今すぐってやるから待ってろ!」という、理尽だが絶対な救済の言葉を。
しかし。 スピーカーから返ってきたのは、波の音と、酷く淡な老の溜息だった。
『……坂井か』
父の声だった。 く、の削ぎ落とされた、聞き覚えのない声だった。
『に注をしただと? 神の浅恵だな。奥田も止められなかったか。……無様だな。飯をわせてやって、残ったのはそれだけか』
「社……!」
神がうようにしてスピーカーにすがりついた。
「申し訳ありません! 俺が悪かったんです! 俺が全部責任を取りますから、どうか松井専務に……!」
『神。おに責任など取れるか』
父の徹な言が、神の言葉を断ち切った。
『おが背負えるのは、せいぜい自分の退職と首の皮枚だ。会社のの板を背負う覚悟もないくせに、軽々しく責任という言葉を使うな』
「あ、ああ……」
『坂井、よく聞け』
父の声が、段とくなった。
『俺はもう引退した。登記簿を見ろ。柳印刷の代表取締役は、柳直だ。……で息子が何を見ているからんが、その会社の舵を握っているのはあいつだ。あいつに決めさせろ。会社を畳むのも、客に座してき恥を晒すのも、全て直の仕事だ。
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度と俺に話してくるな』
ブツリ。
通話が切れた。 ツーツーという無質な子音だけが、搬入のアスファルトのに虚しく響き渡った。
救命ボートは、来なかった。 父は、自ら荒に放り込んだ社員たちのを、完全に振り払ったのだ。
神は完全に魂を抜かれたようにへたり込み、奥田は固く目を閉じてを仰いだ。 坂井のから、スマートフォンが滑り落ちそうになっていた。
絶望が、物理なさを持ってそのを支配していた。 もう誰も、頼るべき親を持たない、見捨てられた子供たちだった。
私は、元に残された冊の無惨な画集を固く握りしめた。 指先に、乾ききらないインキのたい触がねっとりと張り付く。
――あいつに決めさせろ。
父の言葉が、の奥でたく霊していた。 残酷な男だ。 の社員のを賭けにして、ここまで徹に突き放すことができるのか。 だが、同に理解していた。 ここで私が「丈夫だ、私が何とかする」と叫べば、父の張り巡らせた蜘蛛の巣に自らび込むことになる。 私は代目として、、父の霊のので社員の尻を拭い続けるだけの操り形になるのだ。
夜が来た。 社員たちは誰として帰ろうとせず、暗い事務所のでただ息を潜めていた。 私はパイプ子を片付け、の向かいにめた自分ののに移した。
をつけず、え切った運転席で、帳にのシミュレーションをき殴り続けた。 葉版への損害賠償額。 失われる売の補填。 へのリスケジュールの打診。 最悪のの、員理のタイムライン。
眠気など微も訪れなかった。 胃がキリキリと痛み、たい汗が背を伝った。 これが「代表取締役」という子の、本当のさだった。父は、毎夜この暗のでで決断をしてきたのだ。その孤独のさだけは、皮肉にも今、痛烈に理解できた。
そして、運命の目の朝が訪れた。
の空がみ始めた午。 のの通りに、台の黒い級サルーンが、静かに滑り込んできた。 滑らかなカーブを描いてまったそののナンバープレートを見て、私は息を呑んだ。
品川ナンバーの、クラウン。 葉版の役員専用だった。
部座席のドアがき、仕てのいいチャコールグレーのコートを着た初老の男性がりてきた。 髪を綺麗に撫で付け、縁の鏡の奥から鋭いを放っている。
葉版、専務取締役・松井正之。
柳印刷の創業期から父と共に修羅をくぐり抜け、業界内で「カミソリ松井」と恐れられる、版界の物だった。
内にいた私は、即座にドアをけてにた。 松井専務は、閉ざされた柳印刷の正面玄関を瞥し、それから、向かいの歩から駆け寄ってくる私の方へと、ゆっくりと線を向けた。