"締め出された新社長" 第8話
だが、その揺はすぐに頑迷な頑なさへと塗りつぶされた。
「……理屈のではそうですよ。だがね、社。それをやって、もしベタ刷りの部分にムラがたらどうするんです? 葉版の編集が正と現物を見比べて、『が沈んでるじゃないか』と難癖をつけてきたら、誰が責任を取るんですか」
「あなたが技術者としてベストを尽くした結果なら――」
「責任を取るのは俺じゃない!」
奥田が声を荒らげた。 の搬入に、乾いた号が反響する。
「俺は職だ! 械を回すのが仕事であって、会社の板を背負って客に座するのが仕事じゃない! 先代はな、いつだって『俺がいいと言ったら刷れ、文句は全部俺が受け止めてやる』と鳴り込んできたんだよ! だから俺たちは、余計なことを考えずに械の目盛りだけに命を懸けられたんだ!」
奥田の肩が激しくしていた。 剥きしの敵。だがその奥にあるのは、純粋な恐怖だった。
「先代がいなけりゃ、俺たちには何も保証がない。社のあんたは初からので締めされて、歩もに入ってこられないじゃないか! 自分の居所すら確保できないに、『責任は俺が取る』なんて言われて、誰が信じられるって言うんですか!」
奥田の言葉は、鋭利な刃物のように私の肺腑を抉った。 痛いほど正論だった。
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彼らにとって、先代は暴君であると同に、全ての理尽な現実から現を守る絶対な防壁だったのだ。 防壁を失った兵士が、敵の矢がび交う線で歩もけなくなるのは、怠ではなく本能だった。
「……奥田さん。神が昨、速印刷に注をしたのをっているか」
私がく告げると、奥田はあからさまにを鳴らした。
「ってますよ。あいつが勝にやったことです。営業の売目標を守るために、所の流にをげて版権データを横流しした。俺のったこっちゃない。の粗悪な輪転で刷ったゴミが届いて、葉版に取引を切られたって、俺の責任じゃないですからね」
「会社が潰れても、あなたの責任じゃないと言い切れるのか」
「潰れるなら、潰れりゃいいんだ!」
奥田は吐き捨てるように叫び、踵を返しての奥へと消えていった。 い鉄の扉が、ドスンと鈍い音をてて閉ざされた。
私は、の空を見げた。 奥田を責めることはできなかった。 、考を奪われ、判断を奪われ、ただ「完璧な」として飼い慣らされてきた職の、これが限界の叫びなのだ。
午。 通用の脇に戻った私の元へ、息を切らせた営業部の神が駆け寄ってきた。 スーツのネクタイは曲がり、髪はボサボサで、両目のには赤黒い隈が張り付いていた。
「社……! 探しましたよ、こんなところにいたんですか」
神は周囲を気にしながら、私のパイプ子のに屈み込んだ。 そのは刻みに震えている。
「神。速印刷の状況はどうなっている」
私の問いに、神の喉仏がきくした。
「いま……いま、先方の営業から連絡がありました。昨夜から夜通しで刷りしをやって、今、製本と断裁の最終程に入っていると。今の午には、初回の万部のうち、まず万部が柳印刷の搬入にトラックで届きます」
「……刷りがりの品質確認は誰がやったんだ」
「え?」
「現にち会ったのかと聞いているんだ。誰か営業のを、昨夜のうちにのに張り付かせたんだろうな?」
神の線が、泳いだ。 アスファルトの染みを、焦ったように見つめている。
「い、いえ……昨夜は社内の調や、葉版への納品スケジュールの連絡で杯で……。の社が『任せておけ、うちの最鋭でバッチリ仕げてやる』と言っていたので……」
「馬鹿野郎!」
私はわず声を荒らげ、パイプ子からちがった。
「に最鋭などあるものか! あそこにあるのは、の倒産から束文で買い叩いた古のオフセットだけだ! のテンションコントロールも狂っているし、インキの乾燥装置の温度管理も杜撰極まりない! ち会いもせずに刷らせるなんて、正気の汰じゃないぞ!」
「だ、だって、そうするしかなかったんです!」