"締め出された新社長" 第6話
『葉版の、の文芸フェアの記画集です。初版万部、総額で千百万円の案件です』
葉版。 柳印刷の創業期からの顧客であり、売の割くを占める命線だ。
「……あの案件の入稿は、の予定だったはずだが」
『先方のが倒しになって、今データが届いたんです。それも、の朝番に神保町の取次に納品しなければ、全国のへの配本ににわないという超特急です』
「の朝……? 万部をか? うちの輪転を班体制でフル稼働させても、製本と乾燥のを考えればギリギリだぞ」
『ええ、分かっています! だから私は、奥田に今すぐ輪転を回してくれと頼みました。ですが奥田の野郎、さっきの用のみの件でヘソを曲げて、「社の指示がない特急なんて受けられない」「無理な程で械にトラブルがたら誰が責任を取るんだ」と言って、版権データの受け取りすら拒否したんです!』
「奥田が……」
『先方の担当者は泣きそうになって話をかけてきました。「柳印刷が受けてくれないなら、今回のフェアの籍、全部社に回すしかない」と。だから……だから私は、言ったんです』
神の声が、微かにずった。
「何を言ったんだ、神」
『「うちが絶対ににわせます」と……。「以内に、完璧な状態で刷りげて納品します」
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と、私がサインしてしまったんです』
私は息を呑んだ。
「お……の解も取らずに、そんな約束をしたのか!? 現がかないのに、どうやって万部を刷るつもりだ!」
『奥田がかないなら、で刷るしかありません!』
「……?」
吉な予が、背筋を駆けがった。
『島にある、速印刷です。あそこの社とは昔からの付きいで、今夜輪転のラインが本空いていると。データを持ち込めば、格で今夜に万部を刷りげてくれると言ってくれたんです』
「待て! 速印刷だと!?」
私の脳裏に、かつて業界内で流れた悪評が蘇った。 あそこは納期と激を売りにしているが、乾燥を極端に削り、粗悪な再インキを使うことで名なブローカーまがいの印刷だ。 美術や記画集のような、度なの再現性が求められる仕事をせるような所ではない。
「ダメだ、神! の品質じゃ葉版の基準はクリアできない! 沈みや裏移りがたらどうするんだ!」
『ですが、納期をばしたら葉版との取引は完全に終わるんですよ!? 社がいないから、私が決めるしかなかったんです! 先代なら……先代ならきっと、「客の首を絞めるな、を啜ってでもにわせろ」と仰ったはずです!』
「神、聞け! 今すぐその注を止めろ!」
『もうデータを送りました。
先ほど、先方から受領のメールが来ました。今から版を焼くそうです。……社、申し訳ありません。ですが、私は会社を守るためにやりました。結果はしてみせます』
「神! おい、神!!」
通話は方に切られた。
私は受話器を握りしめたまま、ちがっていた。 喫茶のマスターが、驚いた顔でこちらを見ている。 だが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
遅れだ。 歯が、最悪の方向へと回り始めてしまった。
父の「ショック療法」は、社員を自させるどころか、パニックに陥った幹部に致命な暴を引き起こさせたのだ。 現は恐怖で直してかず、営業は目先の責任逃れのために劇薬にをした。 万部の画集。もしそれが粗悪な印刷で納品されれば、葉版の板にを塗ることになる。損害賠償だけでは済まない。かけて築きげた柳印刷の信用が、瞬で消しぶ。
窓のを見る。 柳印刷の社は、午の斜陽を浴びて静まり返っていた。 あの頑丈なガラス扉の向こうで、破滅へのカウントダウンが始まっている。
私はポケットのの、赤信号しかさないカードキーをく握りしめた。 プラスチックのたい角が、のひらに痛いほどい込んだ。
目の朝、気温はさらにがっていた。 空は鉛に淀み、今にもたいが落ちてきそうな気配を孕んでいた。
私は午、昨と同じ濃紺のスーツのにのウールコートを羽織り、柳印刷の通用の脇にっていた。