"妻の手術翌朝、七通の解約通知" 第20話
タワーマンションの駐が使えないため、昨夜のうちに自宅から徒歩分ほどれた、架の貸し駐を探しておいたのだ。最料千百円。砂利が敷き詰められた狭い区画に止めたに、真由美を乗せる。
ドアを閉める際、真由美がふと呟いた。
「……マンションの駐、まだめられないのね」
「ああ」
私は運転席に乗り込み、エンジンをかけながら答えた。
「管理事務の受付は曜と曜の午だけだ。今の午、再抽選の用をしにく。……すまない、し歩かせることになる」
真由美は何も言わなかった。ただ、窓のを流れる見慣れた並みを、ぼんやりと見つめていた。
内には、苦しい沈黙が満ちていた。
かつてなら、私はこの沈黙に耐えかねて、ラジオを音量でつけたり、会社の部の愚痴をまくしてたりしていただろう。だが今は、その沈黙こそが、私たちがかけて積みげてきた「対話の」の正体なのだと痛切に分かっていた。
マンションのエントランスにを横付けし、真由美を先にろした。荷物を持ってエレベーターに乗り、階の自宅へ戻る。
子キーをかざして玄関ドアをけた瞬、温い、空気の流れていない部の匂いがをついた。
真由美は靴を脱ぎ、リビングへとを踏み入れた。
広告
そして、テレビ台の脇にある回線のルーターに目を留めた。
普段なら規則正しい緑のランプが点滅しているはずの器が、今は「AUTH」と「INTERNET」の箇所だけ、吉なオレンジに点灯し、静止していた。
スマートフォンのWi-Fiアイコンは消え、画面の隅には「4G」の文字がさく表示されている。
テレビのリモコンを押しても、ネットフリックスもYouTubeも接続エラーの表示を吐きすだけだった。
「……本当に、全部止まったのね」
真由美が、誰に言うでもなく呟いた。
「ああ。止まった」
私はキャリーケースを壁際に置き、コートを脱いだ。
そして、いつものようにリビングの央にある革張りのきなソファへ向かうのではなく、ダイニングテーブルの引きしから、冊のしいA5サイズの学ノートを取りした。
昨夜、コンビニで現を使って買ってきたものだ。
私はノートをテーブルの央に置き、子を引いた。
「真由美。座ってくれないか」
真由美は怪訝そうに眉を寄せたが、腹部にを当てながら、私の向かいの席にゆっくりと腰をろした。
私はパイプのようにくなった指先で、ペンを本握った。
「昨、健太に言われたよ」
私の声は、静かな部のでく震えていた。
「『もう、お母さんに類をかせないで。お父さんが自分でやってよ』ってな」
真由美の線が、テーブルの目をじっと見つめた。
「あの、晩考えたんだ。俺がやってきたことの何が違っていたのか。……俺は、おに謝していなかったんじゃない。『謝』なんて易しい言葉で片付けられる話じゃなかった」
私はノートの表をめくり、のページに黒いインクで、縦に本の線を引いた。
「俺は、を稼いでいるという免罪符を盾にして、このできるための『決定』と『責任』のすべてをおに注していたんだ。を被るのを嫌がり、失敗したの責任から逃げ、自分だけ全な所で『の主』を気取っていた。その結果、おに孤独な独裁をいて、健太のを奪わせ、親父の介護を切り詰めさせた」
「……直さん」
「おを許すとか許さないとか、そんな資格は俺にはない」
私は顔をげ、妻の目を真っ直ぐに見据えた。
「だが、このまま元通りにおにすべてを丸投げして、『また適当にやっておいてくれ』と言うつもりは毛ない。このつの通を、俺たちがどうやって分担するか。それを今、ここで決めるまで、俺は歩も引かない」
私はペンをらせ、ノートのページに、今朝までに把握したつの項目をき殴っていった。
、父・清の介護認定見直しおよびデイサービス再申請 、健太の学「徒引き渡しカード」の保護者登録 、命保険・医療保険の再設計(真由美の医療特約再加入) 、マンション械式駐の再契約および両審査 、回線の契約名義変更およびプロバイダ再設定 、クレジットカードの個名義化および族カードの廃止 、フィットネスジムの契約見直し