"妻の手術翌朝、七通の解約通知" 第19話
病には、再び私と真由美のだけが取り残された。
膝のに置かれた、息子の学の類。
ベッドのの、退部届と保険証券。
それらすべてが、私というのの罪状認否のように、たい現実として横たわっていた。
私は、くことができなかった。
、真由美は退院する。
つの契約が失効し、能全に陥った、あのえ切ったタワーマンションへ、彼女は戻ってくるのだ。
だが、そこへ戻った、私たちは体、どんな顔をして向かいえばいいというのか。
械式駐のゲートはかず、クレジットカードは止まり、老いた父親の迎えのは来ない。
そして何より、、妻を「無償のバックオフィス」として搾取し、息子に気を遣わせ、庭の現実から逃げ続けてきた私の化けの皮は、今、完全に剥ぎ取られていた。
「……直さん」
沈黙を破ったのは、真由美だった。
その声には、先ほどまでの激しいりはもうなかった。ただ、く、途方もない疲労だけが漂っていた。
「の朝に、退院の続きがあるわ」
彼女は私を見ることなく、シーツをえながら言った。
「迎えに来るかどうかは、あなたが決めて。……もう、私からあなたにお願いすることは、何つないから」
真由美は静かに目を閉じ、再び私に背を向けた。
私は、膝のの類を震えるで握りしめたまま、暗くなり始めた病ので、ただち尽くすことしかできなかった。
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、曜の朝。
都医療センターの正面玄関には、夜のを吸い込んだたい空気が澱んでいた。桜の散り際の弁が、濡れたアスファルトに黒くへばりついている。
午分。私は総受付の自精算のにっていた。
械の画面に表示された真由美の術・入院費用の総額は、万千円だった。
財布をけ、昨夜コンビニのATMで自分の与座からろしてきた万円札を、枚ずつ、指先で確かめるように投入へ滑り込ませる。シュルシュルと無質な音をてて幣が吸い込まれていく。
いつもなら、ポイント還元率のいクレジットカードを械の溝に通し、暗証番号を械に打ち込んで終わりだったはずだ。だが、そのカードはもう能しない。札束のみが指先から消えていく物理な喪失が、昨の夕方から私の胸に巣う痛みに、鈍くなりっていた。
精算から吐きされた領収と診療細を握りしめ、私はエレベーターで階へがった。
病のにつ。引き戸にをかける、私は度ち止まり、着慣れたトレンチコートの襟を正した。
昨まで私を支えていた「企業の営業部」という鎧は、もうどこにもなかった。昨夜、空っぽのマンションで鏡を見た、そこに映っていたのは、妻がで背負い続けてきた荷の正体から目を背け、も全な台から威張り散らしていただけの、みじめな男の残骸だった。
呼吸をつし、戸を引いた。
真由美は、すでに私に着替えていた。に買ったというのベージュのカーディガンに、黒のストレッチパンツ。元には、昨まで履いていた院内用のスリッパではなく、履き古したスニーカーが揃えられていた。
サイドテーブルのの荷物は、さなキャリーケースにすべて収められ、ファスナーが固く閉じられていた。
「……真由美」
声をかけると、彼女はゆっくりと振り返った。
顔は昨より幾分か戻っていたが、術痕をかばうように、わずかに肩がかがみになっている。
「直さん」
彼女の声には、昨のような氷の刃は含まれていなかった。だが、そこにあるのは解の温もりでもなかった。ただ、を平坦に均した、事務な響きだった。
「来てくれたのね。ありがとう」
「退院の続きは、の械で済ませてきた。荷物は俺が持つ」
私がを伸ばすと、真由美は瞬、躊躇するようにキャリーケースの持ちに線を落とした。だが、傷の痛みをいしたのか、静かにを引っ込めた。
「お願いするわ」
それ以の会話はなかった。
エレベーターをり、エントランスをる。をめてあるタイムズのコインパーキングまで、私は真由美の歩幅にわせて、普段の半分以の速度で歩いた。