"妻の手術翌朝、七通の解約通知" 第18話
だが、私の遅すぎる懺悔に対し、真由美はただ静かに窓のを見つめるだけだった。許すとも、許さないとも言わなかった。積みなった氷の壁は、男のたった言の涙声で溶けるほどくはなかった。
そのだった。
トントン、と病の引き戸が、慮がちにノックされた。
静寂に包まれていた病の空気が、微かに揺れた。
「……はい」
真由美が掠れた声で応じると、ゆっくりと引き戸がいた。
そこにっていたのは、背に黒い通学リュックを背負った、制姿のだった。
息子の健太だった。
「……健太?」
私は顔をげ、呆然と息子を見つめた。
学期の休みのはずだ。なぜ、平の昼にここへ来ているのか。
健太は、病のの異様な張り詰めた空気をじ取ったのか、入りでを止め、困惑したように私と真由美を交互に見つめた。
「健太、どうしたの? 塾は午からじゃなかったの?」
真由美が、先ほどまでの徹な声とは打って変わった、母親の柔らかい声音で尋ねた。
健太は線を落とし、スニーカーの先をもじもじとかしていたが、やがてを決したように顔をげた。そのには、枚のプリントが握られていた。
「……学から、連絡があったんだ」
健太は掠れた声で言った。
「徒引き渡しカードの更ができてないから、休みの部活の征の同が受理できないって、担任の先から話があって……。
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お母さんが入院してるから、お父さんに類いてもらって学に持ってきてくれって言われたんだけど」
健太の線が、ベッドの元に散らばる類の——学の申請用、そして自分がにサインしたサッカークラブの退部届へと向かった。
部の空気が、再び凍りついた。
健太は退部届の文字をじっと見つめた、ゆっくりと私に向き直った。その瞳には、かつて私を誇らしげに見げていた幼い息子の面はなかった。そこにあったのは、の顔を伺い、庭の空気を先回りして読むことに慣れてしまった、しいほど成熟したの目だった。
「お父さん」
健太は、静かにをいた。
「もう、お母さんを責めないでよ」
臓を直撃されたような気がした。
「健太……お……」
「僕、さっき廊で聞こえちゃったんだ。お父さんの鳴り声」
健太はリュックの肩紐をきつく握りしめた。
「のサッカーのこと、お母さんが勝に決めたわけじゃないよ」
「……え?」
「僕が、お母さんに頼んだんだ。『退部届をしてくれ』って」
健太の声が、微かに震えていた。
「あの頃、お父さん、夜遅くに酔っ払って帰ってくるたびに、リビングで鳴ってたじゃないか。『今もがない』『誰の稼ぎで暮らしてるんだ』って、机を叩いて……。僕、怖かったんだよ」
息子の言葉が、容赦なく私の過を暴きしていく。
「僕が征にくたびに、お父さんが嫌悪くなって、お母さんがさくなって謝ってるのを見るのが、ずっと嫌だった。僕のサッカーのせいで、がめちゃくちゃになるのが怖かったんだ。だから……僕がやめるって決めたんだよ。お母さんのせいじゃない」
「健太、もういいのよ」
真由美がベッドからを乗りし、息子を制止しようとした。
だが、健太は止まらなかった。学の息子が、ずっと胸の奥底に溜め込んできた毒を、すべて吐きすように私を見つめ続けた。
「お父さんは、いつもそうだよ。おをすだけ威張って、面倒なことになると全部お母さんに押し付けて……。僕たちのこと、本当に見てくれてた? 僕が試で何点取ったか、ポジションがどこだったか、度でも聞いたことあった?」
「……」
「お母さんが倒れた、僕、ったよ。『ああ、やっぱりな』って。お父さんが何もかもお母さんに背負わせてたから、お母さんの体が壊れちゃったんだって」
健太は制の袖で、乱暴に目元を拭った。
そして、元の引き渡しカードの用を、私の膝のにポンと置いた。
「、お母さん退院でしょ。……もう、お母さんに類かせないでよ。お父さんが自分でやってよ」
それだけを言い残すと、健太は踵を返し、度も振り返ることなく病をびしていった。
パタパタとざかる音が、静まり返った病棟の廊に響き、やがて消えた。