"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第23話
やがて列は速度を落とし、内に終点の到着を告げる懐かしいチャイムが鳴り響いた。
プシューと鈍い音をててドアがき、がプラットホームへとりつと、ツンとたく澄んだの空気が全を包み込んだ。裾からは、の終わりを告げる蜩の鳴き声が、シャワーのようにり注いでいる。
美はバッグの持ちを握り直し、鐘を打つ臓を押さえながら、ゆっくりとホームの先へと線を向けた。
古い造の跨線の袂、さな待の軒に、の老がっていた。
洗いざらしの半袖シャツに褪せたズボンを穿き、く腕を組んだまま、改札からてくる々をじっと見つめている。相変わらず眉にい皺を刻み、歓迎しているようにはまるで見えない、嫌そのもののち姿だった。
違いなく、美の父・森田源蔵だった。
美はと蒼太を振り返り、さく頷きってから、父の待つ所へと歩みをめた。
砂利を踏みしめる靴音がづくにつれ、父のし丸くなった肩と、すっかり真っになった髪が、の陽のにくっきりと浮かびがってくる。
が父の目のまで歩み寄ってを止めても、父は腕を組んだまま、眉つかさず、言も発しようとしなかった。気まずい沈黙が流れる、蒼太が歩に踏みし、まっすぐに父の顔を見ろした。
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「……初めまして。蒼太です」
になって急激に背が伸びた蒼太は、今や柄になった父を完全につ分見ろす形になっていた。
父は組んでいた腕をゆっくりと解き、眩しそうに細めた目をからへとかして、自分よりも遥かにきくなった孫の姿をじっくりと見げた。
「……きいな」
それが、父がまれて初めて直接対面した孫に向けた、最初の言葉だった。
蒼太は照れくさそうに首筋を掻きながら、屈託のない笑顔で答えた。
「もうなんで、それなりにでかいです」
すると、父はくフンとを鳴らした。
「……っとる」 「えっ……? なんでってんの?」
蒼太が目を丸くして驚く姿を見て、箱のの量の写真と父の秘密をっている美とは、わず顔を見わせて吹きしてしまった。
父は美たちの方へと向き直ると、美が肩に掛けていたきな旅バッグへと、無言でゴツゴツとした節くれだったを伸ばしてきた。
「あ……いいよ、お父さん! いから自分で持てるよ」
美が慌ててバッグを引き戻そうとすると、父はそのをピシャリと軽く払いのけた。
「いいから、寄越せ!」
く、ぶっきらぼうなだった。父は美のバッグの持ちを力く握り締めると、度も振り返ることなく、スタスタと改札へ向かって歩き始めた。
の美なら、を張って「頼んでない!」
とバッグを奪い返していただろう。父もまた、素直に娘を労うことなどできず、鳴り散らして無理やり奪い取っていたはずだ。
だが、今の美には、父のその荒々しいの温もりが、器用極まりないそのものであることが、痛いほど理解できた。
「……ありがとう、お父さん」
美が背に向けてさく呟くと、父は何も答えず、ただ背を丸めて歩き続けた。
その父の隣に蒼太が並び、「じいちゃん、痛くないの?」「うるさい、子供が気遣うな」などとい言葉を交わしながら、駅の階段をゆっくりとりていく。
美とは、のしろを、定の距を保ちながら並んで歩いた。
は、をく父と息子の背を見つめながら、静かに息を吐きした。
「美……俺はあの、万円を持たせれば、おを故郷へ返してやれるとっていたんだ」
独り言のような夫の呟きに、美はそっと線を向けた。
「でも、違ったな。本当に必だったのは、おなんかじゃなかったんだ」 「……うん」
の言う通りだった。
あの万円が買い戻したのは、単なる列の切符代ではない。
に切なのを売ってまで自分たちの庭を守ってくれた父の無言の犠牲。そして、、誰も最初の歩を踏みせなかった、器用すぎる族の歴史に、もう度歩み寄るための理由を与えてくれたのだ。
を張り、傷つくことを恐れて、誰もにできなかった言葉。
『今度連れて来い』と。
『ただいま』という、族として当たりの、たった言。
それをどちらかが先ににするための、ほんのしの勇気が必だっただけなのだ。
々の梢のから、の眩い漏れがり注ぎ、が歩く古いを黄に照らししていた。
美は隣を歩くの逞しいに、そっと自分のをねた。が優しく握り返してくれるの温もりをじながら、美はを歩く父のさく丸まった背に向けて、ので、そして声にして、静かに呟いた。
「……お父さん、ただいま」
振り向いた父の横顔が、逆のでほんのわずかに綻んだような気がした。
というすぎた空の向こう側から、自分たちの本当の族のが、今、静かにき始めていた。