"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第22話
休の朝、美は押し入れからつの旅バッグを引っ張りし、居の畳のに並べた。、美がで怯えながら故郷へ向かったに使った、あの紺のボストンバッグもそこにあった。
荷物を詰めていると、髪をボサボサにした蒼太があくびをしながら部からてきた。
「母さん、ついにからだっけ?」 「そうよ。ちゃんとおじいちゃんに挨拶するのよ」 「分かってるよ。……でもさ、あのってWi-Fiあるのかな?」
現代っ子らしい息子の真顔の疑問に、美はわず吹きしてしまった。
「らないわよ! おじいちゃんのに、そんなものあるわけないじゃない」 「ええーっ、マジかよ! 夜とか何して過ごせばいいんだよ!」
げさにを抱える蒼太のろから、マグカップをにしたが笑いながら現れた。
「じいちゃんと緒に、縁側ででも見てればいいじゃないか。のは空気が綺麗だから、の川がはっきり見えるぞ」 「かよー」
蒼太は苦笑いしながらも、どこか誇らしげで、楽しそうだった。
こののに、故郷の話題や父のが、何の蟠りもなく自然に溶け込んでいる。その景を見つめながら、美は胸の奥が温かい涙で満たされるのをじていた。
美は旅バッグの奥のポケットに、切に保管していたあのい封筒をそっと滑り込ませた。
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表にはの字で『美へ』。
裏には父の震える字で『次はで来い。汽代』。
この万円こそが、のいいやりと、父の命懸けのが結晶となった、自分たち族を再びつに結びつけてくれた、かけがえのない切符だった。
失われたは、度と戻らない。
それでも、から始まるしいは、自分たちのでいくらでも温かく紡ぎ直していけるはずだ。美は玄関に並んだつのバッグを見つめ、静かに、く息を吸い込んだ。
翌朝、美たちは朝の澄み切った空気の、あいのへと向かう始発に乗り込んだ。
が持たせてくれた万円の封筒から、分の幹線と特急の指定席券を買い求めた。封筒の裏に刻まれた『汽代』という父の器用な言葉に甘え、美たちはその切符を握りしめて改札をくぐったのだ。
巨なターミナル駅を滑りした列は、コンクリートのビル群を抜け、次第に緑い部へと分け入っていく。
窓側の席に座った美は、流れていく窓の景を静かに見つめていた。
、りと絶望に震えながらびしたあの鉄。
、過への恐怖と罪悪に押し潰されそうになりながら、たったで耐え忍んだあの鉄。
しかし今、美のすぐ隣には、穏やかな顔で文庫本を読む夫のがいる。
向かいの席では、蒼太が駅弁の包みを嬉しそうに破り、きな卵焼きをいっぱいに頬張っている。
「うまっ! 母さん、この牛めし弁当めっちゃ美いよ」 「蒼太、あんまりガツガツべると喉詰まらせるわよ。お茶みなさい」
で逃げしたあのを、のを経て、美は自分の切な族とともに戻っている。その圧倒な幸福と充が、美の胸を温かく満たしていった。
がくなるにつれ、トンネルを抜けるたびに内へ流れ込む空気がひんやりと澄んでいく。
弁当をべ終えた蒼太が、窓ののい森を眺めながら、ふと美に尋ねてきた。
「母さん、じいちゃんって……やっぱり怖いの?」
写真でしか見たことのない、初めて会う祖父の姿をい描き、歳のなりに緊張しているのが伝わってきた。美は隣のと目をわせ、苦笑いを浮かべた。
「怖いっていうか……とにかくっ張りで、素直じゃなくて、めんどくさいなのよ」 「なんだそれ、それじゃあ誰かさんにそっくりじゃないか」
が缶コーヒーをみながら茶々を入れると、美は目を吊りげた。
「ちょっと! 体誰のことよ!」 「さあねぇ? なぁ、蒼太」 「あはは、母さん以にいないじゃん」
の笑い声が、ガタゴトと揺れるローカル線の内にるく響き渡った。
かつて美を激しく苛んでいた故郷への暗いのりが、今はこんなにも温かな笑顔に包まれている。
このるさこそが、と蒼太が美のにもたらしてくれた、何物にも代えがたい最の贈り物だった。