"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第20話
「……そうだな。おの言う通りだ。俺の自己満でお義父さんを追い詰めちゃいけないな。分かった、おのペースに任せるよ」
は話をかけるのをいとどまってくれた。相の痛みに寄り添い、急がずに待つことができるの優しさに、美は改めて謝した。
それから週が過ぎた、の午のことだった。
美はを決し、居の黒話から実の番号をダイヤルした。
プルルル……とい呼びし音が回以鳴り響き、留守番話に切り替わる直で、ガチャンと荒々しく受話器が持ちげられた。
『……もしもし』
ひどく嫌で、億劫そうな、あの父の声だった。美は受話器を握り直し、しだけ微笑みながら名乗った。
「お父さん、私だけど」
受話器の向こうで、数秒の息苦しい沈黙が流れた。やがて、
『……分かっとる』
と、相変わらずの素っ気ない返事が返ってきた。その器用さに、美の元が自然と綻んだ。
「お父さん、通帳見たよ。桐の箱のの写真も、お母さんのも、全部見たから」
受話器の奥から、微かに「ウッ」と息を呑むような気配が伝わってきた。しかし、父は努めて平然を装うように、
『……そうか』
とだけ答えた。美は呼吸置き、核へと踏み込んだ。
「……さん宛てのも、読んだからね」
その瞬、話の向こうの空気が完全に凍りついたのが分かった。
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い、い沈黙の、父の絞りすような鳴り声が受話器を震わせた。
『あ、あれは捨てとけ言うたはずだ!』 「ううん、捨てないわよ。さんがね、の宝物にするって言ってるもの」 『馬鹿を言え! そんな昔の切れ、とっとと燃やしてしまえ!』
父の声は擦り、あからさまな揺が話線を通じてビリビリと伝わってきた。美はぶりに、父との会話のでから笑い声をあげた。
「ふふっ……お父さん、照れてるんでしょう?」 『うるさい! 勝なこと言うな!』
ガチャリ!と、が痛くなるような勢いで話が切られた。
しかし、美の胸にはりなど微も湧かなかった。受話器を置いた美の脳裏には、話の向こうで顔を真っ赤にして団駄を踏んでいるであろう父の姿が浮かび、おしくてたまらなかった。
そして、その数の夜過ぎ、いもよらない来事が起きた。
夕を終え、テレビを見ていたのスマートフォンが、けたたましく震え始めたのだ。画面を見たが、「見らぬ局番だ……」と呟きながら通話ボタンを押した。
「はい、森田ですが……」
話から漏れ聞こえてきた第声を聞いた瞬、の表が変した。は弾かれたようにちがり、居の隅へと移して直の姿勢をとった。
「お、お義父さん……! ご無汰しております、です!」
の緊張しきった声に、美もハッとしてテレビの音を消した。
話の奥から、父のく掠れた声が聞こえてくるが、何を言っているのかまでは判別できない。は々とをげながら、話に向かって語りかけた。
「はい……はい。あの、お義父さん。のことは……本当に、本当にありがとうございました」
の目から、くも涙がポロポロと零れ落ちていた。
話の向こうから、何かを激しく鳴りつけるような父の声が微かに漏れ聞こえた。『何の話だ、らん!』とシラを切っているのだろう。しかし、は怯むことなく、真っ直ぐな言葉を紡ぎ続けた。
「、読ませていただきました。僕たちのために、事なのを売ってくださって……僕たちのを、族を守ってくださって……」
が声を詰まらせると、話の奥の父は、い沈黙に沈んだ。
やがて、受話器から微かに、
『……昔の話だ。もう忘れた』
という、さく掠れた声が聞こえた。は涙をボロボロとこぼしながら、力く首を横に振った。
「僕にとっては、昔の話じゃありません! 、絶対に忘れません! ……来の、必ずでご挨拶に伺います。蒼太を、連れていきますから」
の真摯な誓いに対し、父はしばらく無言を貫いていた。話を切ることもせず、ただ娘の夫の言葉を、じっと受け止めているようだった。
やがて、父はフンとくを鳴らした。
『……勝にしろ』
ブツン、と通話が切れた。
はスマートフォンを握りしめたまま、そのにち尽くし、それから美の方を振り返った。