"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第18話
ペリ、ペリと乾いた音をてて、封印されていた封筒がかれた。からてきたのは、のの便箋が枚だった。父の凄まじい圧によって、文字の裏側がボコボコと浮きがっている。
は便箋を広げ、掠れた声で最初のを読み始めた。
『このは、分渡さない』
いかにも、あの頑固な父らしいきしだった。自分でをいておきながら、それを相に渡すことすらプライドが許さず、箱の底に封じ込めていたのだ。
は唾をみ込み、線を次の節へと移した。
『私はまだ、君を娘の夫として素直に認める気にはならん』
容赦のない、拒絶の言葉だった。に娘を奪いった男に対する、父親としての剥きしの敵。はその言葉を正面から受け止め、苦しげに眉をひそめた。
「やっぱり……許してはいなかったんだな」
しかし、はそこで終わっていなかった。の目が次のを捉えた瞬、その顔から表が消え失せた。
『だが、美のがなくなるかもしれないと、から聞いた。 ……それは、困る』
それは困る――たったその言に込められた、器用極まりない父親の執が、居の空気を変させた。は息を呑み、震える指で便箋を握り直した。
『のをし売った。は美に持たせた。私からだとは言うなと言った』
「のを……?」
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の声が喉の奥で詰まった。
「お義父さんの……林のを売っただったのか……!?」
美は畳に顔を押し当て、嗚咽を漏らしながら頷いた。
「そうなの……! お母さんのおなんかじゃなかったの……! お父さんが、先祖代々切に入れして育ててきた杉のを、業者を呼んで急遽切り倒して、売って作ってくれたおだったのよ……!」
は便箋を取り落としそうになりながら、両で顔を覆った。
「俺は……俺はなんてことを……! お義父さんが命の次に切にしていたのを売らせて……俺はを買い、自分の活を守ってもらっていたのか……!」
の目から、粒の涙がとめどなく溢れた。
「どうして言ってくれなかったんだ、美! どうして……!」 「お父さんが、絶対にさんには言うなって言ったのよ! 『男のプライドを傷つけるような真似はするな、のだと言って渡せ』って……! 私に固く止めしたのよ……!」
美の叫びに、は声をげて泣き崩れた。
自分を番憎んでいるとっていた義父が、誰よりも自分の男としてのプライドを気遣い、自分たちの危を救うために切な財産を投げ打ってくれていた。しかも、恩着せがましい言葉を切にせず、も沈黙を守り続けていたのだ。
は涙を拭い、再び便箋の最の節に目を落とした。
そこには、父の魂の叫びのような文字が並んでいた。
『君が良い夫かどうかは、今もらん。 だが、美の帰るを守るのは、父親の仕事だ』
その最のを読んだ瞬、はそのに両をつき、畳に額を擦り付けて慟哭した。
「俺は馬鹿だ……! 本当に馬鹿野郎だ……! 妻の父親にこんな犠牲を払わせておいて、自分の力で庭を守った気になって……! お義父さんがどんないでを売り、どんないで俺たちを支えてくれていたのか、何つろうともしなかった……!」
美は泣き崩れるの背にすがりつき、で声をわせて泣き続けた。
、が抱えてきたと見栄と嘘が、この黄く褪せたによって、すべてっ端微に打ち砕かれた。残されたのは、いのから、器用に、しかし命懸けで娘夫婦を守り続けてくれていた、老いた父親の無償のだけだった。
は震えるでの便箋を丁寧に折り畳み、元の黄ばんだ封筒へとそっと戻した。
そして、美が先ほどボストンバッグから取りし、テーブルのに置いていた、あの万円の入ったい封筒へと線を移した。
が『美へ』と表にき、父に突き返された、あの封筒だ。
は何気なくその封筒をに取り、裏返した瞬、ハッと息を呑んだ。
「……美、これを見ろ」
の震える声に促され、美は涙を拭いながら封筒の裏側を覗き込んだ。
そこには、がいた『分、しでも楽にしてきてやりなさい』という優しい文字の真に、見慣れた、しかし病みがりので懸命にかれた、黒々とした太い跡が付けされていたのだ。