"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第16話
拾いげて広げると、それは古いカレンダーの裏だった。
そこには、父の無骨で震える跡で、
『平成 美より 万』 『平成 美より 万』 『平成……』
と、美が送ったごとの総額が、几帳面に計算され、記録されていた。
「お義父さん……ずっと、おが帰ってくるのを待ってたんだよ」
の掠れた声が、静かな居に沁み渡っていった。
の『度と戻らない』という娘の言葉を、父は最初から信じてなどいなかった。いつか娘がこの敷居を再び跨いだ、傷つない状態でこのを突き返すために、父はあの静まり返ったで、この通帳と向きい続けていたのだ。
美は涙で界を滲ませながら、畳のに置かれたもうつの荷――あの桐の箱へと、震えるを伸ばした。
父が『で見ろ』と頑なに命じ、放そうとしなかった箱。
美は正座し直し、呼吸をしてから、桐箱のい蓋を両で持ちげた。
ふわりとちったのは、古い防虫剤の匂いと、懐かしい実の匂いだった。箱のには、几帳面に理された無数のの束が、隙なく敷き詰められていた。
番に置かれていたのは、輪ゴムで留められた分い賀状の束だった。
宛名はすべて、き母である『森田』になっている。美が毎、実へ送り続けていた賀状だった。
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ゴムをし、枚めくると、蒼太がまれたの、まだ赤ん坊だった頃の写真付き賀状が現れた。
お宮参りの写真、よちよち歩きを始めた頃の写真、保育園の子をかぶった写真。
それらの賀状は、どれも端が擦り切れ、何度も何度もの指で撫で回された形跡があった。
賀状の束のには、茶封筒に入れられた量の写真が、代ごとに几帳面に仕分けられていた。封筒の表には、父の黒々とした跡で、『蒼太 幼稚園』『蒼太 学』『蒼太 学』と、太いマジックでインデックスが振られていた。
美は『学』の封筒から写真を数枚引きした。
そこには、体育館のでし緊張した面持ちでつ蒼太の姿があった。美が母に送った写真が、ただの枚も捨てられることなく、完璧な状態でファイリングされていたのだ。
「お父さん……全部、取っておいてくれたんだ……」
美は写真を胸に押し当て、声をげて泣いた。
病で父が言った『だろう』という言葉の裏に、どれほどの孤独なと、孫への静かな差しがあったのかをいらされ、胸が締め付けられた。
が箱の奥へを伸ばし、底の方から数枚の便箋を拾いげた。
「美、これ……お義母さんの字じゃないか?」
渡されたのは、桃の便箋だった。付を見ると、美がをてから数が経った頃のものだった。
丸みを帯びた、優しい母の跡で、こうかれていた。
『美へ。 お父さんは相変わらず何も言いませんが、昨届いた蒼太ちゃんの入学式の写真を、夜に鏡をかけて、で回も見返していましたよ』
最初のを読んだ瞬、美の目から再び涙が溢れた。母は、父の器用な姿を美に伝えようとしていたのだ。
しかし、その便箋は封筒に入れられたまま糊付けもされず、切も貼られていなかった。投函されることはなかったのだ。
次の便箋には、さらに胸を打つ事実が記されていた。
『美へ。 今も送、ありがとうね。お父さん、また郵便局へって通帳に入れていましたよ。「使えばいいのに」と私が言ったら、「これは美のだ。あいつが何かあった、困ったに返してやるだから、円も使えん」と鳴られてしまいました。お父さんは、美がいつか困ったのために、懸命貯めているのよ』
便箋を読み終えた美は、畳のに突っ伏して慟哭した。
父は、娘からのを拒絶したのではなかった。娘がいで万がの苦境にたされた、いつでも救いせるようにと、最の砦としてそのを守り続けていたのだ。
母はその父の頑ななを美に伝えたくて、何度もをきながら、父の誇りを守るために投函できずにいたのだ。
「お義父さんは……おのことを、度も見捨ててなんかいなかったんだな」
も目を潤ませ、震える声で美の肩を抱いた。