"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第15話
が慨そうに呟きながら、セーターの隙にを入れた。その指先が、何かの固い角に触れた。
「ん……? 美、底に何か入ってるぞ」
が引きしたのは、表の角が擦り切れ、垢で黒ずんだ冊の古い通帳だった。
「通帳……? 誰の?」
から渡された通帳の表を見て、美は目を見張った。
央には、父の力い達な文字で、美の旧姓である『森田美』の名がはっきりと記されていた。
「私の……? でも、こんな通帳、作った記憶ないわ。子供の頃のやつかしら……」
美は訝しみながら通帳をき、印字された最初の目に目を落とした。
その瞬、美の指先が凍りついた。
最初に入が記録されていた付は、――美がと結婚し、実をびしたの、まさにそのだった。
印字された額は『10,000』。
その翌には『20,000』。
さらにその数ヶには『5,000』。
規則な付と、刻みな額の入記録が、ページの奥へと延々と続いていた。
「これ……っ!」
美は息を呑み、ページをめくる指が激しく震え始めた。も美の異変に気づき、眉を寄せて横から通帳を覗き込んできた。
「どうしたんだ、美? ……なんだこれ、毎、毎のように細かく入されてるけど……」
美は通帳を握りしめたまま、ポロポロと涙を零しながら、震える声で告した。
「これ……私が送ったおだわ」 「えっ……? おが?」
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が驚きの声をげた。美は罪悪に苛まれながら、夫の顔を見つめた。
「ごめんなさい、さん……! 私、、あなたに内緒で、自分のパート代からしずつ実におを送っていたの。万円とか、万円とか……母さんがしでも楽になればとって、母さんの座宛てに送ってたのよ。計からじゃなくて、私のパート代からだけど……相談もしないで、本当にごめんなさい……!」
美は夫に責められることを覚悟し、畳に額を擦り付けるようにしてを縮めた。
しかし、のからたのは、りではなく、い溜息と静かな問いかけだった。
「……どうして言ってくれなかったんだ。親に仕送りをするくらい、相談してくれればるわけないだろう」 「……言うほどの額じゃなかったし、お父さんにられたら突き返されるとったから……。母さんがきてるは、母さんが使ってくれてるとってたの。でも……」
美は顔をげ、涙に濡れた瞳で通帳を見つめた。
母は、美が送ったを、活費として円も使っていなかったのだ。すべて『森田美』名義のこの通帳に入し、そのまま残していた。
だが、通帳をじっくりと見ていたが、突然、鋭い声をげた。
「待て、美……ここを見てみろ!」 「え……?」 「入記録、おが送っただけじゃないぞ!」
が指差したを見て、美は息が止まりそうになった。
美が送した覚えのある万円や万円の記録のに、定期に『30,000』『50,000』という、美にはに覚えのないまとまった入が幾にも刻まれていたのだ。
「私……こんな、度も送ってないわ……!」 「お義父さんだ……」
の声が震えていた。
「お義父さんが、自分で稼いだを、おの送にわせてしずつし入れているんだ……!」
通帳の最終に印字された残は、美が送った総額を遥かに超え、数百万円という莫な額に膨れがっていた。
そして何より――通帳のの記録ので、『支払()』の欄には、ただの度も数字が印字されていなかった。
記録、ゼロ。
、美が罪滅ぼしのように送り続けたおを、父は円たりとも使うことなく、それどころか自分のなけなしの収入をしわせ、娘名義の座に切に貯め続けていたのだ。
「なんで……なんでよ……!」
美は両で顔を覆い、畳のに崩れ落ちて号泣した。
父のプライドが、娘からの援助を受け取ることを拒絶させたのだろう。しかし、突き返せば娘が傷つくことを、母を通じてっていたのだ。だから父は、娘からの送を『娘から預かった』として扱い、いつか娘が困ったに返せるようにと、自分の汗流したまでして、守り続けていたのだ。
『度と戻ってくるな』と鳴り散らして追いした娘のを、こんな器用で、気のくなるような方法で抱え込んでいたなんて。
が通帳の最のページをめくると、の隙から、細く折り畳まれた片がハラリと落ちた。