"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第14話
美はの甲で涙を乱暴に拭い、泣きながら、わずフッと笑い声を漏らした。
「……うん! 分かった。今度は蒼太も、さんも、で来るからね」
美が力く答えると、父は「……勝にしろ」と吐き捨てるように呟き、背を向けて茶のへと戻っていった。
引き戸の奥へ消えていく父のろ姿は、もはやの恐ろしい父親のものではなかった。さく、丸まり、しかし確かに温かい、の老いた父親の背だった。
美は誰もいなくなった玄関に向かって、く礼した。
「……ってきます」
い引き戸を閉め、美はたいがる坂を歩き始めた。
両に提げたつの荷物が、ずっしりと腕にい込む。きにはじなかった烈なさだったが、美の取りは驚くほど軽やかだった。
、自らにかけ続けていた『もう度と戻らない』という呪縛が、ようやく解けたのだ。荷物のに何が入っているのかは、まだ分からない。だが、次にこのを訪れる、自分はもう過から逃げ惑う逃者ではないのだと、美はに煙る々を見げながら確信していた。
数、美は両腕の痛みに耐えながら、ようやくがの最寄り駅へとりった。
平の夕暮れ、通勤客でごった返す改札を抜けると、混みのに、仕事帰りのスーツ姿のがっていた。
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美の姿を認めるなり、の顔にパッと堵の笑みが広がり、股で駆け寄ってきた。
「美! おかえり。無事だったか」
は美の肩からずり落ちそうになっていた旅バッグを素く受け取ると、美の両に握られた異様な荷物に目を丸くした。
「うわっ……なんだこれ、ものすごくいじゃないか! 体どうしたんだ?」 「お父さんがね……どうしても持って帰れって、無理やり持たされたのよ」
美が苦笑いを浮かべながら息を吐くと、は荷物を両に持ち替え、そのさに「うぐっ」と声を漏らしながら首を傾げた。
「お義父さんは、具はどうだった?」 「相変わらずが悪くて頑固だったけど……すごくさくなってたわ」 「そうか……。まあ、無事に会えて本当によかった」
はそれ以く詮索せず、美の疲れた取りにわせて、ゆっくりと夜の宅を並んで歩いてくれた。
自宅へ辿り着くと、居の絨毯のに、父から押し付けられた桐箱とボストンバッグをドスンとろした。蒼太は部活の征で隣県の宿にっており、今夜は帰ってこない。のには、と美のきりだった。
美はコートを脱ぎ捨てると、旅バッグの内側ポケットから、発にが忍ばせてくれたあのい封筒を取りした。
「さん、これ……発するに、私のバッグに入れてくれたでしょう」
はネクタイを緩めながら、ばつの悪そうにを掻いた。
「……気づいてたのか。しは役にったか?」 「本当にありがとう。すごくかったわ。でもね……これ」
美はボストンバッグのファスナーをけ、番に突っ込んでおいた封筒を指差した。の万円には、付かずのままだった。
「お父さんに渡そうとしたんだけど……『いらん!』って鳴られて、突き返されちゃったの。の修理とか、自分のために使ってって言ったんだけど、全然受け取ってくれなくて……ごめんなさい、せっかく用してくれたのに」
は封筒を受け取り、苦笑いを浮かべながらを確かめた。
「やっぱりお義父さんは頑固だな。俺からのなんて、プライドが許さなかったんだろう。いいよ、美が無事に帰ってきてくれたんだから、それだけで分だ」
はしもることなく、優しく美のを撫でてくれた。
美はさく息を吸い込み、居のに正座し直すと、ボストンバッグのファスナーを端まできく引きげた。
ツンとを突く古い樟脳の匂いとともに、綺麗に畳まれたが何枚も姿を現した。
「……これ」
美がおそるおそる取りしたのは、美が幼い頃に着ていた丈のい着物や、学代に着ていたカーディガン、そして母のがよく着ていた編みのセーターだった。
「お義父さん、おの昔のを、ずっと取っておいてくれたんだな……」