"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第13話
腕の筋肉が鳴をげるほどのさだった。
宅配便で送ってしまおうかと何度も考えたが、美はその考えを振り払った。『まで自分で持って帰れ』という父のあのい差しをいすと、途で誰かのに委ねてはならないような、奇妙な義務を覚えたからだ。この理尽なさこそが、自分が放置してきたのさそのもののようにえた。
台所では、父が背を丸め、朝で使った茶碗をたいで静かに洗っていた。
美が乗るべきバスは、午過ぎに集落の留所を通る。父は駅まで見送りに来るとは言わなかった。『が痛いから、で見送る』と、美の顔を見ずにぶっきらぼうに告げただけだった。
美は父の背に向かって、温かいお茶を淹れて湯呑みを差ししたが、のに弾むような会話は最までまれなかった。こたつを挟んで向かいい、テレビのニュースをぼんやりと眺める。ぶりに再会したというのに、は最まで、ぎこちなく器用な父と娘のままだった。
柱の古計が、ボーン、ボーンとい音をててを告げた。
「……それじゃあ、そろそろくね」
美がちがると、父も無言でちがり、ゆっくりとを引きずりながら玄関までついてきた。
美はにり、たいスニーカーにを入れて靴紐を固く結んだ。
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肩に旅バッグを掛け、両にそれぞれ桐箱の呂敷包みとボストンバッグの持ちを握りしめる。ずしりと肩と指先にい込むみに耐えながら、美はがり框につ父を見げた。
父は腕を組んだまま、険しい顔で美を見ろしている。
暗い玄関ので、のに再び息苦しい沈黙がりてきた。別れ際に、体どんな言葉をかければいいのか、美には分からなかった。
、この同じで、美は父に向かって『度と戻らない!』と憎しみを込めて叫び、をびしたのだ。その呪いの言葉が、、を縛り続けてきた。
今さら、『また来るね』なんて言えるだろうか。もしそれを言って、父から『度と来るな』とたく突き放されたら、今度こそち直れないかもしれない。
美は唇をく噛み締め、俯いたまま、引き戸の取っにをかけた。
何も言わず、このまま背を向けてちるのが、お互いをこれ以傷つけずに済む番全な方法だ――そう自分に言い聞かせ、引き戸をガラリとけようとした。
まさに、その瞬だった。
「……おい」
背から、くかすれた父の声が、美の背を呼び止めるように響いた。
美は臓をねがらせ、恐る恐る振り返った。
父は腕を組んだまま、美の顔を見るのではなく、に置かれた自分のまみれの靴をじっと睨みつけていた。
その喉仏が、ゴクリと度きくした。
「……蒼太を」
息子の名を聞いた瞬、美の息が止まった。
父はく息を吸い込み、それからを決したように、美の瞳をまっすぐに見据えた。
「……今度、連れて来い」
鳴り声ではなかった。何か途方もない圧を懸命に押し殺すような、静かで、しかし確固たる響きを持った声だった。
美は自分のを疑い、持っていたボストンバッグを取り落としそうになった。
『度と戻ってくるな』と娘を追いしたはずの父が、自分から、次の再会を約束する言葉をにしたのだ。
瞬きをした途端、美の界が歪み、粒の涙がポロポロと頬を伝ってへと落ちていった。張り詰めていた胸の奥の結び目が、ぷつりと音をてて解けていく。
「……いいの?」
美はの奥のツンとした痛みに耐えながら、震える声で聞き返した。
「度も会ったことのない孫を……本当に、連れてきてもいいの?」
美の涙の問いに、父は再びフイと線を逸らし、ひどく面倒くさそうに顔を歪めた。
「……孫が、自分の爺のを見に来るくらい、勝だろうが」
どこまでも素直になれない、言い訳がましい言葉だった。しかし、そのぶっきらぼうな響きの奥に隠された、器用極まりないが、美には痛いほど伝わってきた。
父はずっと、を張り続けながらも、この玄関で娘が戻ってくるのを、そして孫に会えるを待っていたのだ。