みかん小説
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"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第7話

その厳な事実が、窓を眺める美の胸に鋭く突き刺さる。自分はもう、こののではない。ただの勝で都のいい、通りすがりの訪問者に過ぎないのだ。

病院へくに、美にはどうしてもち寄りたい所があった。

集落の入りにある留所でバスをり、美は緩やかな坂をゆっくりとり始めた。元で砂利が擦れうジャリ、ジャリという音さえ、静まり返ったあいの集落ではやけにきく響く。

の切れから、見覚えのある黒ずんだ瓦根と、に晒されて褪せた杉板の壁が見えてきた。

森田の――美がまれ育ち、そしてに捨てただった。

全体を包む空気は、美の記憶よりもずっとさく、沈み込んでいるように見えた。だが、を止めて目を凝らすと、母の根の部だけが、まだ真しい黒瓦に葺き替えられているのが分かった。庭の隅には、昔、母が丹精込めて入れをしていたさな壇の痕跡が残っていた。しかし、そこに咲くはまばらで、ほとんどが枯に覆われ、放置されていた。

美は玄関の引き戸のにち、そのまま縛りに遭ったかのようにけなくなった。

錆びたブリキの郵便受けには、れて判読しづらくなった「森田源蔵」の表札が、昔と同じ所に掲げられている。

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ガラリと戸をければ、奥の台所から「おや、美かい」と母のるい声が聞こえてきそうな錯覚に囚われる。だが、のからは活の気配も、のてる物音も切聞こえてこない。んだような静寂が、全体を支配していた。

ここで母はで病魔と闘い、そして息を引き取ったのだ。

その最期にすらち会わなかった自分が、今さらどんな顔をしてこの敷居を跨げるというのか。

美は震える指先を古い製の引き戸の取っにかけたが、どうしても力を込めて横に引くことができなかった。もし鍵がいていて、に入れたとしても、で過の霊と向きう勇気がなかった。母の遺が飾られているであろう仏壇にをわせることすら、今の自分にはあまりにもすぎる罰のようにえたのだ。

元からいがってくる猛烈な罪悪と自己嫌悪に耐えきれず、美は引き戸からをした。

「……ごめんなさい、お母さん」

さく呟き、美は逃げるように踵を返すと、い旅バッグを抱え直して、坂を駆けりるように病院へと向かった。

につしかない町の総病院は、から徒歩で分ほどの台に建っていた。コンクリートの壁はで黒ずみ、昭の面を濃く残している。

自ドアをくぐると、独特の消毒液と湿布の入り混じったたい匂いが美のを突いた。

受付で恐る恐る件を告げると、案内された階の内科病棟へとエレベーターでがった。

ナースステーションのでち止まり、カウンターのにいたベテランの護師に声をかける。

「あの……森田源蔵の族の者ですが」 「えっ、源蔵さんの?」

護師は元のカルテから顔をげ、美の顔をまじまじと見つめた。

「娘さんですか?」 「はい、娘の美です。父の容態は……どうなのでしょうか」

で震える美の問いに、護師は表をらげ、元の記録をめくりながら穏やかに説してくれた。

「ええ、畑の畝でをとられて転倒されたそうですが、幸い骨折や部の傷はありませんでしたよ。ただ、し脱症状を起こされていて、齢な衰えも見られますので、のため点滴をして、静にしていただくことになったんです。命に別状はありませんから、してくださいね」

美は胸にを当て、張り詰めていた息をく吐きした。だが、護師はし声を潜め、困ったような苦笑いを浮かべて言葉を継いだ。

「ただね、お父様、運ばれてきたも『族には絶対に連絡するな』って頑なに言い張って聞かなくて……。結局、所におまいの節子さんがご自の判断で付き添ってくださって、連絡を入れてくれたんですよ」

やっぱりそうか、と美の胸に苦い痛みがった。

父は、自分が倒れて病院に担ぎ込まれてもなお、美に助けを求める気など微もなかったのだ。

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