"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第6話
休の朝だというのに、とも嫌な顔つせず、い旅バッグを交代で持って歩いてくれた。
改札の自改札ので、が美のを取り、幹線の指定席特急券と乗券をしっかりと握らせた。
「気をつけてな。お義父さんによろしく伝えてくれ」
は穏やかな差しで美を見つめ、彼女の肩をポンと軽く叩いた。そのの温もりが、コート越しに美の張った体を解きほぐしていく。
「うん……ってきます。留守、蒼太のことよろしくね」
美は涙声になりそうな喉を懸命に引き締め、笑顔を作ってく頷いた。横にっていた蒼太も、まだ眠たそうに目をこすりながら、きくを振った。
「母さん、じいちゃんに写真見せるの忘れないでよ!」 「忘れないわよ。約束する」
美は蒼太の逞しくなった背を軽く叩き、自改札に切符を通した。
プラットホームへと階段をがり、指定された号の乗りへ向かう。やがて滑り込んできた幹線に乗り込み、窓際の席にく腰をろした。ガラス越しにホームを見ろすと、階段の脇にと蒼太が並んでち、こちらを見げてさくを振っていた。
美も慌てて窓ガラスにのひらを押し当て、の姿を網膜に焼き付けるように見つめ返した。
発のベルが鳴り響き、プシューという空気圧の音とともにいドアが閉まる。
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滑らかに加速を始めた列が、ホームを、そして見送るの姿を瞬くに方へと押し流していった。の姿が完全に豆粒のようになって消えった、美はシートの背もたれにく体を沈め、肺のの空気をすべて吐きすようにい息を吐いた。
幹線から来線の特急へと乗り換え、さらに岳帯をるローカル線へとむにつれ、窓の景は劇に変化していった。
のビル群や然とした宅は姿を消し、トンネルをつ抜けるたびに、々の緑はさを増し、やがて鮮やかな葉のグラデーションへと移り変わっていく。たい清流がい沫をげて蛇し、切りった崖のに、黒い瓦根の民が点々と散らばり始めた。
、美はこの同じ鉄のり列に乗って、逃げるようにをびしたのだった。
あの、美の隣には見送ってくれる族などもおらず、ポケットのなけなしの銭と、父に対する煮え滾るようなりと孤独だけを抱えていた。窓に映る自分の顔は、世界のすべてを拒絶するように張っていた。
だが今は違う。私の帰りを待ってくれている夫がいて、する息子がいる。
鞄の内側ポケットに、が密かに忍ばせてくれた万円の封筒があることなどほどもらず、美はただ、胸の奥で渦巻く過への恐怖と、病で待つ父への怯えにを震わせていた。
列はあいを縫うようにり続け、正午を回った頃、終点のさな無駅へと滑り込んだ。
プシューと鈍い音をててドアがいた瞬、ひんやりと湿った、たいと枯の匂いが美の腔をくすぐった。
「あ……」
ぶりに吸い込む故郷の空気だった。記憶のの匂いよりもずっと涼で、どこか懐かしく、そして痛切だった。
改札をると、駅の景は昔とほとんど変わっていなかった。トタン根のさびれた産物、褪せた観案内板、刻表が申し訳程度に貼られたさな待。美は旅バッグの持ちを握り直し、駅広にポツンとまっていた、古びた錆の線バスに乗り込んだ。
乗客は美のほかに、腰の曲がった老がいるだけだった。
く唸るディーゼルエンジンの振が、を通じて美の裏に伝わってくる。バスがゆっくりと発し、細いをんでいく。窓のを流れる景は、美の胸を締め付けた。
かつては夕方になると子供たちの声が響いていたさな商は、軒並みシャッターがろされ、錆びた板が傾いていた。田畑のあちこちには耕作放棄が広がり、背のいススキがに揺れている。若者たちは次々とをていき、残されたのは老ばかり。
私もまた、このを見捨てて逃げした若者のだったのだ。