"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第5話
美が息を潜めてその様子を見つめていると、は何事もなかったかのようにちがり、スーツの着を脱いでテレビのへと移していった。
美はあえて何も気づかないふりをして、お玉で煮物の汁をすくい続けた。
ずっとになってから、美はこののののをることになる。
はこのの昼休み、会社のくのへわざわざを運び、自分自の座からまとまった現をろしてきていたのだ。封筒のに入っていたのは、札でえられた万円というだった。
交通費や宿泊費はもちろんのこと、もし父の入院費がしていたり、古びた実の修繕が必だったりしたに、美がおのことを気にしてち往しないようにと、が独断で用してくれたものだった。
『分、しでも楽にしてきてほしい』
封筒の裏に、の几帳面な細い文字でそうき添えられていたことを、このの美はまだる由もなかった。は、美が父とどんな激しい喧嘩をしてをたのか、なぜも頑なに帰らなかったのか、その根底にある理由をあえて問い詰めようとはしなかった。過の傷を詮索するのではなく、美が自分自ので過と向きうための準備を、ながらえてくれたのだ。
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その夜の卓は、いつもよりしだけ静かだった。
部活の練習を終えて空腹を抱えて帰ってきた蒼太が、盛りのご飯を勢いよくに掻き込みながら、ふと美の顔をじっと見つめた。
「母さん、からかけるんだろ? ばあちゃん……じゃなくて、じいちゃんにくの?」
蒼太は母方の祖父に度も会ったことがない。幼い頃から写真すら見せられたことがなかったため、「じいちゃん」という単語をにするのすら、どこかぎこちなく躊躇っているようだった。美は箸を止め、努めて穏やかな声で微笑みかけた。
「ええ。おじいちゃんがね、畑でちょっと転んで入院したって連絡があったから。様子を見にってくるわ」 「ふーん……。じいちゃんって、どんななの?」
蒼太の悪気のない無邪気な質問に、美の喉が詰まった。
箸先でつまんだ焼き魚のが、刻みに震える。美の記憶のにある父は、のあのりに満ちた、恐ろしい形相のまま凍結されていた。
「……そうね。昔から数がなくて、すごく頑固なよ。ると本当に怖くてね」
美が正直に答えると、横でお茶をすすっていたが、楽しそうに元を緩めてを挟んだ。
「なんだ、それじゃあ美にそっくりじゃないか。あの頑固さは父親譲りだったんだな」 「ちょっと、さん! 私はあんなにっ張りじゃないわよ」
美がしムキになって言い返すと、と蒼太が顔を見わせ、ドッときな笑い声をあげた。苦しく沈みかけていた美の胸の澱が、の屈託のない笑い声によって、ふわりと軽くなったような気がした。
夕の、自に戻っていた蒼太が、階段を駆けりてきて美のにった。そのには、枚の沢のある写真が握られていた。
「ほら、これ」
蒼太はし照れくさそうに首筋を掻きながら、ぶっきらぼうに写真を美へと差しした。
「先の体育祭のやつ。リレーのアンカーでったの写真。……じいちゃんに見せてきてよ。俺のこと、写真でも枚も見たことないんだろ?」
悪気のない息子のその言葉に、美の胸の奥がチクリと痛んだ。
、自分のだけでをびしたせいで、父は初孫である蒼太の成を、何つリアルタイムでる会を奪われてしまったのだ。
「……分かったわ。ちゃんと、番に見せるね」
美は写真を受け取り、両で切に抱きしめた。写真のの蒼太は、バトンを握りしめ、を見据えて力くトラックを駆け抜けていた。美はその写真を、旅バッグの番にあるポケットへと切にしまい込んだ。
翌朝の空は、つない見事なれだった。しかし、朝の空気はたく澄み渡り、吐く息がかすかにく濁った。
最寄りの私鉄駅の改札まで、と蒼太のが並んで美を見送りに来てくれた。