"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第2話
だが、帰らない本当の理由は、距でもでもなかった。
美の父である森田源蔵は、でも評判の頑固者だった。林を管理し、細々と畑を耕しながらきてきた父は、昔気質の無骨なで、を言葉にするのが極端にだった。そして何より、娘である美がをて、くので暮らすことを最まで頑として許そうとしなかった。
の、美がとの結婚を決し、彼を実に連れて挨拶にった夜の景は、今でも昨のことのように鮮烈に脳裏へ焼き付いている。
囲炉裏の切られた古い板ので、はに額がつくほどくをげ、美を幸せにすると誓った。しかし、座敷の奥に胡をかいて座っていた父は、された茶にも切をつけず、煙の煙を燻らせながら、ただの言も祝をにしなかった。それどころか、が帰った、ってかかる美に対して、氷のようにたい声で言い放ったのだ。
『そこまでしてへきたいなら、勝にけばいい。その代わり、度と泣いてこの敷居を跨ぐな』
父は美から完全に顔を背け、庭の暗がりをじっと睨みつけていた。
若く、っ張りだった美の喉元に、激しいりと悔しさが込みげた。
『分かったわよ! 頼まれたって度と帰ってこないから!』
美はそう鳴り返すと、の回りの最限のだけを鞄に詰め込み、夜けのたいを踏んでをびした。
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は、美と父が激しい論の末に仲違いしたこと自体はっていたが、父が娘に放ったその最の呪いのような言まではらなかった。
それ以来、美の実と彼女を辛うじて繋ぎ止めていたのは、母のだけだった。
母は父のような頑迷さはなく、折、美の留守に静かな声でメッセージを残してくれたり、父に隠れていを送ってくれたりしていた。美もまた、母宛てにだけは蒼太の成をらせる写真や賀状を、の目を盗むようにして欠かさず送り続けていた。
しかし、その唯の細い絆であった母も、の初、脳梗塞で急逝した。
美がい親戚からの話で母のをらされた、実ではすでに通夜の準備がめられていた。らせを聞いて取り乱し、居でへたり込んだ美の肩を、は両でく抱きしめ、真剣な差しで訴えかけてくれた。
『美、緒に帰ろう。どんなことがあったとしても、最のお別れくらいはしないと駄目だ。今帰らなかったら、おは悔する』
はすぐに喪を用しようとちがった。だが、美はその袖を震えるでく引き、涙で顔を歪めながら、頑なに首を横に振ったのだ。
『かない……けないの。お父さんが、度と戻ってくるなって言ったのよ。
今さらどの面げて帰れっていうのよ……』
は苦しげに眉をひそめ、美の痛々しい表を見つめ、それ以は無理いをしなかった。
母の葬儀にかなかったという事実は、それからの、美の魂の奥底をたい刃物のように削り続けていた。父へのくだらないと見栄を優先し、自分を育ててくれた最の母のに顔すら見届けなかった自分。その浅ましさとけなさに、夜にで目が冴えては、枕を涙で濡らす々が続いた。
そして、母が世をってからの、美の庭から故郷の話題は完全に消滅した。息子の蒼太もまた、母方の祖父に度も会ったことがないまま、物がついたには「いないもの」として育ってしまったのだ。
だが、美には、にも誰にもかしていない、もうつのささやかな秘密があった。
、美はに何度か、実へ向けて密かにおを送り続けていた。
それは計の座からではなく、美自がパートで得た微々たる与のから、爪にを灯すようにして捻したおだった。万円、万円、あるいはパートのボーナスがたの万円。
『お母さん、これで美しいものでもべて、しは楽をしてね』
そんない言葉を添えて、現留で送っていた。父にられれば即座に突き返されるに決まっていたため、母がきているは、母名義の座宛てに、あるいは母の元に直接届くように細の注を払っていた。