"三十二人目の卒業写真" 第18話
「あの子を探すのは、輪際やめてください」 藤は言った。その目には、先ほどまでの激しいりはもうなかった。ただ、く澄んだ諦が漂っていた。
「あいつが今、幸せかどうかなんて、俺たちにはる権利もない。あいつのは、俺たちのもんじゃないんだから」
「……ああ。分かっている」
「ただ、先」 藤は私の目をまっすぐに見据えた。
「もう度と、『全員を送りした』なんて嘘はつかないでくれ。あのクラスは、だったんだ。それだけは、あんたがぬまで、絶対に忘れるな」
「忘れない」 私は涙で滲む界ので、しっかりと頷いた。
「ぬまで、背負っていくよ。君たちが背負わされたものと、同じさのものを」
藤はそれ以、何も言わなかった。 彼は作業台のの具を片付け始め、私に背を向けた。 それは許しではなかった。だが、にわたって私たちを縛り続けていた、偽りの「完璧さ」という名の呪いが、音をてて解けていく瞬だった。
週の曜。 桜が散り、青葉が芽吹き始めたの夕暮れだった。
私は町れの古い沿いにある、さな蕎麦の奥座敷を予約していた。 華やかな横断幕も、束も、乾杯の音もない。 集まったのは、わずかだった。
藤、宮田、野、そして藤。
引き戸がき、私が入っていくと、座卓を囲んでいたが斉に線を向けた。
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かつての学級委員の藤は、いつもの饒舌さを完全に失い、膝のに置いたを落ち着かなさそうにいじっていた。宮田は鏡の奥の目で静かに私を見つめ、野は目元をし赤くしていた。 藤は、末席に座り、ただ黙って湯呑みを見つめていた。
「……みんな、忙しいところ集まってくれて、ありがとう」
私が座布団に腰をろすと、藤が耐えかねたようにをいた。
「先……僕、藤から全部聞きました。僕、本当に……何も気づいていなかったわけじゃないんです」
藤の声は震えていた。かつて「完璧な」を誇らしげに宣言した男の仮面は、剥がれ落ちていた。
「あの、葵ちゃんがいないこと……みんな、々分かってたんです。でも、僕が委員だったから。『全員揃って卒業しよう』って、僕が番最初に言いしたから……葵ちゃんがいなかったことを認めたら、自分がやってきたことが全部嘘になっちゃうような気がして……」
藤はテーブルに突っ伏すようにして、を抱えた。
「、同窓会のたびに『、も欠けてない』って言い続けたのは、僕自が番怖かったからなんです。あの子を追いしたのは、僕たちなんじゃないかって……」
「藤君、君のせいじゃない」 私は静かに、しかしはっきりと言った。
「すべては、私が始めたことだ。君たちにあの空気配を読ませ、嘘を正義だとい込ませたのは、担任だった私の責任だ。
今、ここにみんなを呼んだのは、誰かを責めるためじゃない。私が、君たちに押し付け続けてきた荷を、今こので、私のでろしたかったからだ」
私は鞄のから、さな額縁を取りした。 には、藤が守り続けてきた、あの枚の絵が収められていた。 藁半に鉛で描かれた、のクラスメイト。 端で、だけを塗られずに笑っている、さな女の姿。
野が息を呑み、ハンカチで元を押さえた。 宮田が静かに鏡をし、目を押さえた。
私はちがり、座卓の末席——藤の隣に置かれていた、誰も座っていない空の席へ歩み寄った。 そこには、あらかじめに頼んで、分の鉢と箸、そして湯呑みを用してもらっていた。
私はその席のに、額縁を静かにてかけた。 そして、着のポケットから取りした、緑の缶をその脇に置いた。 駅の売で買い直した、品のライオンハッカ飴の缶だった。
座敷のに、静まり返った空気が満ちていた。 誰も何も言わなかった。 だが、その沈黙は、かつての職員のような酷な拒絶ではなく、越しにの女の居所を取り戻すための、厳かな祈りのようだった。
「乾杯は、なしにしよう」 私が席に戻り、静かに呟いた。
「ただ、べよう。の、あのに戻って」
運ばれてきた温かい蕎麦を、私たちは言葉なに啜った。