"三十二人目の卒業写真" 第11話
あの、職員の奥で、泣きながらハッカ飴をみす彼女の姿を、その目で目撃した——の徒のの、もうの「誰か」なのだ。
宮田の背が喫茶の階段の向こうへ消えたも、私はしばらくちがることができなかった。
テーブルのに置かれためきった珈琲の表面には、い油膜が張っていた。 特の淀んだ空気ので、換気扇のい唸り声だけがにこびりついてれない。
——『をいたのは、あの子じゃありませんよ。先、あなたは探す方向を完全に違えている』
宮田の最の言葉が、私の蓋の内側を激しく打っていた。
あの子ではない。 、あの、あの職員の奥で、泣きながらハッカ飴を噛み砕いていた葵本ではない。 その姿を、同じ子供の目線で、すぐ傍らから見つめていた「もうの徒」。 の教え子のに、私の嘘のすべてを目撃し、の沈黙を破ってあのを袋に滑り込ませたがいる。
私は震えるで千円札を伝票のに挟み、逃げるように喫茶をた。
にると、正午の眩しい差しが網膜を焼いた。 の陽気配に浮きつ駅広。制姿の学や、幼い子供のを引く若い母親たちの姿が、ひどくい世界ののように見える。 私は背を丸め、周囲の線から逃れるようにして、に自宅へのを急いだ。
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斎の机のには、昨夜からそのままのが散乱していた。 とりどりの通の封筒。 そして、その央に横たわる、あの無質ない封筒。
私は老鏡をかけ、机の引きしからルーペを取りした。 もはや、教え子たちからの温かい祝福としてを読むことはできなかった。 これは捜査ではない。警察の真似事をするつもりもなかった。だが、あのの主を特定しなければ、私のこれからのは歩もへまない。呼吸をすることすら許されないような圧迫が、胸を押し潰していた。
まず、便箋と封筒の質を丹に調べた。 文具で売られているような級なものではない。コンビニや百円ショップでに入る、ごくありふれた無の封筒。便箋も、どこにでもある横罫線の入った価なものだった。
だが、にかざして斜めから表面を観察した、私の指先がぴたりと止まった。
封筒の裏面、糊付けされた角のフラップの端に、極めてさな、しかし確実な「痕跡」が残されていた。 指の先ほどの、かすかな黒ずみ。 煤煙のような、あるいは油煙のような、わずかに粘り気を持った汚れ。 をづけてみると、古びたの匂いに混じって、ごく微かに揮発油の匂いがした。
——械油だ。
私の脳裏に、昨夜の同窓会の景が急速に蘇った。
居酒の座敷、奥の席。 代、代の教え子たちがスーツや綺麗なジャケットをに纏うで、だけ、着慣れない物の紺のブレザーを着て、どこか居悪そうに背を丸めていた男がいた。
藤。 藤健。
当の62組で、最も目たない男子徒のだった。 父親が町れでさな自修理を営んでおり、放課になるといつも急いでに帰っていた。 授業は発言することもなく、休みも誰かと群れることなく、ただ黙々とノートをとっていた。 昨夜、私が束を受け取った、藤はくから拍を送っていたが、度も私と線をわせようとはしなかった。乾杯のグラスを交わすこともなく、次会が終わると同に、誰にも別れを告げずに姿を消していた。
そして——何より決定な事実が、私の記憶の底から浮かびがってきた。
昭の。 教の番ろの列、窓際の席に座っていた葵。 その隣、隣の席に座っていたのが、藤だったのだ。
葵が転入してきたあの、私は「藤、おが々教えてやってくれ」と、席のい彼に声をかけた。藤は何も言わず、たださく頷いただけだった。 それからの半、が親しげに話している姿を見た記憶はほとんどない。だが、毎、毎、藤は葵のすぐ隣で、彼女の慎ましい息遣いを、教科をめくる微かな音を、誰よりもくで聞き続けていたはずなのだ。