"三十二人目の卒業写真" 第7話
でも、馬鹿じゃなかった」と言い放ったのだ。
宮田の携帯話に発信した。 回、回と呼びし音が鳴る。拒絶されるのではないかという恐怖が胸を締め付けた頃、カチリと通話が繋がった。
「……はい、宮田です」 昨夜と同じ、を削ぎ落とした声だった。
「宮田君、藤田だ。……切らないでくれ」 私は受話器を両で握りしめ、懇願するように言った。
「頼む、宮田君。分でいい。顔を見て話がしたいんだ。君が勤めている役所のくまでく。昼休みでも、仕事のでも構わない。お願いだ」
受話器の向こうで、類をめくるような乾いた音がした。 宮田はすぐに返事をしなかった。秒い沈黙の、いため息がさく漏れた。
「……今の昼、分。駅の『喫茶ロンド』に来てください。居はできません。分だけです」
「ありがとう、宮田君。本当に——」 私の礼の言葉が終わるに、通話は方に切られた。
約束のまでは、まだ以あった。 私は落ち着かない取りで居を歩き回り、やがて着を羽織って玄関をた。 向かうべき所は、つしかなかった。
町央学。 昨まで私が勤めていた学ではない。に、私が初めて教壇にち、そして彼女を「いなかったこと」にした、あの造舎のあった所だ。
現は鉄筋コンクリートのモダンな舎に建て替えられ、当の面はほとんど残っていない。
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休みの庭には気がなく、桜の蕾が固く閉じたまま、たいに揺れていた。
職員玄関で来客用のスリッパに履き替え、職員を訪ねた。 昨退職したばかりの元教員ということで、現の教は丁寧に対応してくれた。代半ばの、私よりし若い男だ。
「藤田先、い本当にお疲れ様でした。今は何かのお忘れ物でしょうか?」 「いえ……実は、し個に調べたいことがありましてね。昭度の、当の資料をし閲覧させていただくことはできないかといまして」
教は怪訝そうに眉を寄せた。 「昭……ですか。もう以ですね。どのような資料でしょうか」
「当の、62組の学級誌、あるいは保健の利用記録のようなものです。児童の欠に関する、個なメモでも構わないのですが」
教は苦笑いを浮かべ、肩をすくめた。 「先もごじの通り、学の公文の保限は原則として、な指導録でもです。の舎改修とデジタル化の際に、限を過ぎたの記録はすべて教育委員会の指示で廃棄処分されましたよ」
「……何つ、残っていないのですか? 当の教員が残した誌や、個な控えのようなものも」
「ええ、切ありません。個報保護の観点からも、過の曖昧な記録を残しておくことは認められていませんから。
今システムに残っているのは、正式に卒業が認定された児童の卒業台帳のデータだけです。お調べになりたい徒のお名は?」
教の問いに、私の喉が引きつった。
名。 その名を検索したところで、画面には「該当なし」の文字が表示されるだけなのだ。 なぜなら、彼女の名は最初から、この学のいかなる公帳簿にも記されたことがないのだから。
「……いや。いいんだ。古い教え子の顔を、ふといしてね。数がかかりそうなら、結構です」
私は教にをげ、逃げるように職員をにした。
廊を歩きながら、胸のがたいで満たされていくようだった。 制度の壁。 も、そして今も、あの徹な「制度」が彼女のを跡形もなく消しっていた。
記憶が、否応なしにのあのへと引き戻される。
昭、。 肌寒いがる朝、当のに呼ばれてに入ると、そこに見らぬ母子がっていた。
母親は痩せこけ、使い古された物のビニール傘を固く握りしめていた。その傍らで、母親の濡れたコートの裾を掴んでいたのが、当歳の葵だった。
母親は事があって夫から逃げており、借の取りてを避けるために各を転々としていた。 民票を移せば、居所がれてしまう。だから転入続きができない。
だが、子供だけにはどうしても学に通わせたい——母親は涙を流しながら、机に額を擦り付けるようにして懇願した。