"三十二人目の卒業写真" 第6話
なぜ、この男がそれをっている? あの、あの職員の奥に入ったは、私と、あの子以に——。
「待ってくれ! 君はあの、職員に……!」
『ガチャリ』
無な属音が響き、通話は唐突に切断された。 ツーツーツーという、虚しい子音だけが、受話器から漏れ聞こえる。
「もしもし!? おい、待ってくれ! 誰なんだ、おは!」
暗い廊で、私は叫んでいた。 だが、返ってくるのは窓を叩く激しい音だけだった。
受話器を持つが力なく滑り落ち、コードが螺旋を描いてに垂れがった。 プラスチックの受話器が、巾に当たって鈍い音をてる。
ハッカ飴を、泣きながら全部べた。 その景を見たが、あの、あの所にいたのだ。 そしてその物は、昨夜の宴の席で、私の目のでグラスを掲げていたのにいる。
私はえ切った廊のに崩れ落ち、暗ので両でを抱えた。 全の震えが、どうしても止まらなかった。
公衆話の受話器から流れたツーツーという無質な切断音は、夜の廊にく尾を引いていた。
私は受話器を置いたまま、たい板張りのに膝をついていた。 指先が刻みに震え、膝の関節が軋むように痛む。だが、ちがる気力さえ湧かなかった。
——『職員の隅で、あなたが買い与えた缶入りのハッカ飴を粒ずつ、泣きながら全部みしたあの子のことを……あなたはこの先も、墓まで「守ってやった」
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と言い張るつもりですか?』
暗の向こうから浴びせられたその言葉が、の奥で何度も、何度も反響していた。 男の声は決して鳴ってはいなかった。く、抑制され、だからこそ逃れようのない絶対な軽蔑がこもっていた。
ハッカ飴。 緑の、平たい属製の缶。 あの朝、私が駅のさな売で、銭を崩して買い求めたものだ。 誰にも見られないように、自分のコートのポケットに隠して職員へ持ち込み、さなのひらに押し付けるようにして渡した。
「これを舐めていなさい。お腹が空いたら、引きしの乾パンをべてもいいから」 「……はい」 「いいかい、葵ちゃん。先が呼びに来るまで、絶対にこの部からてはいけないよ。で誰かの声がしても、返事をしてはいけない」
あの、あの子はどんな顔をしていただろうか。 私は彼女の顔を直できず、逃げるように背を向け、教へと急いだのではなかったか。 泣きながらべた? 粒ずつ、あの苦いほどに甘いハッカ飴を、きりの暗い部で?
私は両で顔を覆った。指のから、い息が漏れる。 忘れていたのではない。 、その景を像することから、ただ卑怯に目を背け続けていただけだ。
朝、カーテンの隙から差し込むは、昨までのそれとはまるで違っていた。 、毎朝欠かさずネクタイを締め、アイロンの当たったシャツに腕を通してきた活は、昨で終わった。
今からは、誰にも邪魔されない穏やかな老が待っているはずだった。 だが、机のに置かれた通の謝のと、あの通のい便箋は、私のこれまでのすべてが砂の楼閣であったと酷に告げていた。
顔を洗い、無精髭を剃ったが、鏡に映る自分の顔は晩で歳も老け込んだように見えた。 目のには黒い隈が落ち、頬が痩け、元はだらしなくがっている。これが、徒たちから「派な恩師」と讃えられた男の本当の姿だった。
私は午過ぎ、ふたたび話のにった。 昨夜の公衆話の男。あの声を、私はっているはずだった。という歳が声質を変えていたとしても、あのイントネーション、言葉の切り方には、どこか聞き覚えがある。 だが、いせない。 昨夜の同窓会には、名以の男子徒が席していた。次会まで残った者もいれば、次会でに帰った者もいる。あの喧騒ので、誰がどんな表で私を見ていたのか、今となっては確信が持てなかった。
私は、昨夜話を切られた副委員の宮田に、もう度だけ接触しなければならないと考えた。 彼はっていた。あの、あの部に誰がいたのかを。 そして何より、彼は昨夜の話で「僕たちは子供だった。