"三十二人目の卒業写真" 第5話
当のにそう頼まれ、預かることになった「名簿にない徒」。 毎教に通い、誰よりもにノートを取り、誰よりも静かに笑っていた女の子。
その彼女を、卒業式の当、私はどう扱ったか。
「葵ちゃん、今はここにいてね」 「どうして、先?」 「葵ちゃんのためなんだ。続きがまだ終わっていないから、式にると、悪なたちに々言われて傷つくことになる。先が守ってあげるから。ね? ここにいれば全だから」
私はそう言って、駅の売で買った緑の缶入りハッカ飴を彼女のに握らせ、職員の奥の、物置同然のスペースに彼女を押し込めたのだ。 鍵こそかけなかったが、「決してにてはいけない」と言い含めて。 そして教に戻り、の徒たちに向かって、滑らかな笑顔でこう告げたのだ。 「今は葵さんは急なでお休みです。残だけど、みんなで葵さんの分までしっかり卒業式をやろう」
あのの、徒たちの表。 誰も疑わなかった。誰も異を唱えなかった。 そう信じていた。 だが、宮田は言ったのだ。「僕たちは馬鹿じゃなかった」と。
夜のを回った。 はさらにまり、根を叩く音が全体を包み込んでいた。 私は暗ので、じっと話を見つめていた。 もう誰も話などかけてこないはずだった。夜が更ければ更けるほど、私の罪の識だけが黒々と膨らんでいく。
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そのだった。
ジリリリリリリリリッ!
けたたましいベルの音が、静寂を切り裂いた。 臓が激しくねがり、呼吸が止まりそうになった。 こんなに、誰が?
私は震えるでちがり、廊の話へ歩み寄った。 ナンバーディスプレイの液晶画面を見る。
『非通設定』
嫌な予が、首筋をたく撫でろした。 宮田だろうか。それとも、藤が何かをいしてかけてきたのか。 あるいは——。
受話器にを伸ばす。指先が微かに震えていた。 私は受話器を持ちげ、に当てた。
「……もしもし。藤田です」
すぐには声が返ってこなかった。 ザザーッという、激しいの音。そして、ゴオッという型トラックが沫をげて通り過ぎるロードノイズ。 内からではない。。 それも、折プツプツと混じる械なノイズからして、公衆話からの通話だった。
「……もしもし?」
私がもう度問いかけると、受話器の向こうから、く濁った男の声が聞こえてきた。 宮田の声ではない。藤の声でもない。 もっとく、を完全に押し殺した、代半ばの男の声。
『……先』
背筋に悪寒がった。
「どなたですか」
男は私の問いには答えず、ただたく、淡々と言葉を紡いだ。
『の徒たちに片っ端から話して、裏をわせようとするのはやめてくれませんか』
「な……っ!?」
『みっともないですよ。
経って、やっとに入れた名誉ある退職なのに。そんなに自分の過が惜しいですか』
「君は、誰だ! 昨夜のをいたのは君なのか!?」
受話器を握るに力を込め、私は暗に向かって叫んだ。 だが、男は微もじる様子を見せなかった。 受話器の向こうで、カランと銭が落ちるような属音がした。
『誰もあの子を覚えていないふりをしているのは、先、あなたがそうさせたからですよ。「あの子は病気だ」「最初からいなかったんだ」って、あなたが番最初に嘘をついたんじゃないですか』
「私は……私はあの、あの子を守ろうと——」
『守る?』
男の声に、初めて確な侮蔑が混じった。 く、吐き捨てるような嗤い。
『職員の隅で、あなたが買い与えた缶入りのハッカ飴を粒ずつ、泣きながら全部みしたあの子のことを……あなたはこの先も、墓まで「守ってやった」と言い張るつもりですか?』
「……っ!!」
を鈍器で殴られたような衝撃だった。 界が真っ暗になり、受話器を取り落としそうになった。
ハッカ飴。 緑の缶に入った、ライオンのハッカ飴。 あの、あの朝、私が駅のキヨスクで買い、誰にも見られないように彼女のに握らせたものだ。 彼女がそれを泣きながらべたことなど、私はらない。式が終わり、記撮が終わり、教で最の別れを告げた、私が職員に戻ったには、彼女はもう空になった缶を握りしめて、赤く腫らした目で私を見げただけだったのだから。