"顔合わせのすっぽかしと五通の裏切り" 第9話
その醜くれな懇願をにした、私のにあった彼へのは完全に消滅した。 私は父から話を受け取り、氷のように徹な声で「あなたの言うことなんて何も信じられないわ。婚約の話はなしだから」と言い放ち、通話を方に叩き切ったのだった。
通話を切ったも、スマートフォンは画面を激しく滅させ、連続して着信をらせていた。 弘からの鬼のような着信の嵐。 回、回、回――。
「……弘は、これで諦めてくれるかしら?」 私が画面を見つめながら呟くと、隣で腕を組んでいた父が、険しい顔で首を横に振った。
「どうだろうな。自分の保と欲望しかにない男だ。素直に諦めるタマなら、これほど執拗に話をかけてきたりはせんよ。……おそらく、まだ何とかなるとい込んでいるはずだ」
父の洞察は、恐ろしいほど正確だった。 それからわずか分。 実の玄関のチャイムが、狂ったように連打されたのだ。
ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! ドンドン! とドアを激しく叩く音まで響いてくる。
私は父と顔を見わせた。 料亭から実までは、タクシーをばせば分ほどの距。 弘は――あろうことか、顔わせの席に座っていたはずの自分の両親を引き連れて、私の実へと直接乗り込んできたのである。
玄関のい引き戸をけると、そこには案の定、気と焦燥で顔を真っ赤にした弘と、そのろに困惑と憤りを隠せない表の弘の両親がち尽くしていた。
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弘は私と、私の背につ父の姿を捉えるなり、鬼の首を取ったかのように目を剥いて叫んだ。 とも、格式い料亭へくための礼や着物をに纏っているが、その佇まいには品格の欠片もじられなかった。
「紗栄ッ!! 何の真似だッ!!」
弘は自分の都の悪い真実を両親に伏せ、「紗栄が急に理尽な理由で顔わせをすっぽかし、方に婚約を破棄すると言いした」とでも吹き込んできたのだろう。彼らの敵に満ちた線を見れば、その魂胆は目瞭然だった。
私は歩も引かず、ややかな線を弘に真っ直ぐ向けた。
「何の用かしら。弘との婚約は完全に破棄するって、話ではっきり伝えたはずだけど」
私の落ち着き払った態度に、弘はさらに激昂し、拳を振りげて叫んだ。
「ふざけるな! こんな方で勝な婚約破棄が、世に通用するわけがないだろうが! 当破棄だ!」
すると、弘の背にっていた父親――初老の太りな男性が、威圧な取りで歩にみて、私たちを睨みつけながらをいた。
「弘の言う通りですぞ! 体、うちの息子が何をしたと言うんですか! 事な両の顔わせをドタキャンした挙句、婚約破棄だなんて、あまりにも非常識極まりない! 弘に何か問題があると言うなら、親である私たちにも納得のいく説をしてもらおうじゃないですか!」
母親の方も、着物の襟元を正しながら、キーキーと甲い声を張りげる。
「そうですよ! うちの弘は、真面目で優しくて、誰からもされる自の息子です! 社のお嬢様だからって、を見していい気にならないでちょうだい!」
の言葉を聞きながら、私は胸のでい憐れみを覚えていた。 弘の両親は、本当に息子の本性を何つらないのだ。溺する息子に都よく騙され、利用されていることにすら気づいていない。 これからかされる真実をれば、この両親は計りれないショックを受けることになるだろう。 だが――それもすべて、弘という男が自ら撒き散らした業の報いなのだ。同して真実を伏せてやる義理など、私にはどこにもなかった。
私はく息を吸い込み、弘の両親の目を真っ直ぐに見据えてをいた。
「ご両親のおにも、ぜひ聞いていただきたいお話があるんです。……おの自の息子さんには、婚約者である私のに、交際している恋が『』もいるんですよ」
静寂が、玄関先を支配した。 弘の父親は鳩が豆鉄砲をらったような顔になり、母親はをあんぐりとけて固まった。
「……は? こ、恋が…………?」 弘の父親が、掠れた声で呟く。