"「会計は嫁」の還暦祝いと18万6740円" 第26話
そして今、その病から抜けし1で歩き始めようとしている。
浩司はを見つめたまま、何も言わなかった。
しかしその目には、確かな堵のがあった。
私が声をかける。
「お義母さん、丈夫そうね」
浩司はゆっくりと頷いた。
「ああ」
彼は優しい顔で言う。
「俺がってる母さんので、今が番まともかもしれない」
私たちはそのを丁寧に折りたたみ、テーブルの引きしにしまった。
義実の崩壊は決して劇ではない。
見栄と嘘で塗り固められた関係が壊れ、それぞれが自分の責任を取り戻すための再の始まりだった。
残された義父がどうなるのかは分からない。
でもそれは彼自が自分の見栄と引き換えに支払うべき、正当な代償なのだ。
2最初の曜の朝。
夫の浩司がコーヒーをみながら、唐突に言った。
「親父が婚届にハンコを押すそうだ」
姑の美代子がをてから1ヶ半が経過していた。
その、義父のしのぶは切の話しいを拒絶し、実に引きこもっていた。
しかし、気やの支払いを全て姑に任せきりだった義父は、次々と届く督促状とゴミが溢れ返る活に耐えきれなくなったのだろう。
ついに音をげ、姑が依頼した弁護士を通してに応じるという連絡をしてきたのだ。
浩司はマグカップを置き、私を見た。
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「今、俺が実へって親父の署名と捺印が入った類を受け取ってくる」
彼は申し訳なさそうに言う。
「母さんから残っている物のコートとアルバムを数冊、ダンボールに詰めて送って欲しいって頼まれたんだ。悪いけど伝ってくれないか?」
私はさく頷いた。
「分かったわ。緒にく」
義父と顔をわせるのは、あの正の修羅以来だった。
しかし議と、恐怖や緊張はなかった。
かつて私を支配していたというは、すでに完全に崩れっているとっていたからだ。
午1。
私たちはで義実へ到着した。
玄関のドアをけた瞬、ツンとしたゴミの臭いとカビの入り混じったような異臭がを突いた。
浩司がわず顔をしかめる。
「うわ、ひどいな」
廊には通販の空き箱や脱ぎ捨てられたが散乱していた。
リビングに入ると、こたつにはべかけのコンビニ弁当の容器が積みがり、の踏みもない。
その央で義父は無精髭をやし、シワのついたスウェット姿で座っていた。
義父は私たちを見るなり、嫌そうに唸った。
「遅いぞ」
その声にはかつての威圧はない。
ただのがりと孤独への苛ちが混じった、ひどく老いぼれた響きだった。
義父は私の方を横目で睨みつけた。
「エミさん。お嫁の分際で、今まで1度も様子を見に来ないとはどういうことだ」
挨拶のにまず文句。
自分が世話をしてもらうのが当然だという態度は、まだ変わっていない。
義父は顎でキッチンをしゃくった。
「そこにあるゴミをまとめろ。あと茶を入れろ」
昔の私なら波をてないために、黙って従っていたかもしれない。
しかし私はコートを脱ぐこともなく、静かに答えた。
「私はお義母さんの荷物をまとめに来ただけです」
義父の眉がピクリとねた。
「何だと?」
私はたく返す。
「お茶ならそこにあるペットボトルをめばいいじゃないですか。私はあなたの政婦ではありません」
はっきりと言い切ると、義父は顔を赤くしてちがろうとした。
「お、親に向かって」
浩司が私のにち塞がるようにして、義父を制した。
「親父、いい加減にしろ」
浩司はる。
「エミは母さんの用事で来たんだ。俺たちの活に、親父のつ当たりを持ち込むな」
義父は舌打ちをして、どっしりとこたつに座り直した。
誰も自分の命令を聞かない。
その現実をようやく脳が理解し始めたのだろう。
義父が吐き捨てるように言った。
「さっさと類をせ。こんな、俺の方から願いげだ」
浩司は持参したクリアファイルから数枚の類を、テーブルの空いたスペースに置いた。
1枚は婚届。
そしてもう1つは、財産分与に関するだった。
浩司が確認する。
「親父、内容には目を通したのか」
義父は苛たしげに、類を乱暴にめくった。