みかん小説
本棚

"息子の捜索地図を消す男" 第1話

印刷されたばかりのチラシは、指先のを吸い取っていくようにたかった。

A4のコピー用に、息子の顔写真がきく刷られている。 登に玄関で無理やり笑わせたの写真だ。歯が本抜けていて、青いランドセルの肩ベルトを片方だけくしていた。

「浦悠(みうら・ゆうと)、学、歳。百センチ、痩せ型。紺のキャップに、赤いスニーカー」

その文字を、私はこので何千回読んだかわからない。 指でなぞりすぎて、インクの端がし滲んでいた。

半ばの夕暮れはい。午を回ると、公民館の板張りのから気がいがってくる。 テーブルのには、町内のスーパーから差し入れられた麦茶のペットボトルと、半分乾燥した濡れタオルが並んでいた。 奥のパイプ子では、蛍ベストを着た所の齢者たちが、く湿った声で言葉を交わしている。

「今もがかりなしかね」 「警察の犬も、あの叉でを止めたらしい」 「川の方じゃないといいが……」

彼らの声が途切れるたび、換気扇の回る規則正しい音だけが部を満たした。 誰も悪気はない。それどころか、平の昼から仕事を休み、あるいは農作業のを止めて、見ずらずのの子どものためにだらけになって歩いてくれているのだ。

責めることなど、できるはずがなかった。

広告

「遥さん」

背から、落ち着いた、し掠れた声がかけられた。 振り返ると、野寺修さんがっていた。

自治会の野寺さんは今で歳になる。 かつて町の課でく勤めげ、退職は請われて自治会を期続けているだった。髪をきれいに撫でつけ、作業着のに羽織った反射ベストの襟元には、いつもさな全ピンで作りの名札が留められている。

彼のには、湯気のつコップが握られていた。

「しみなさい。朝からもをつけていないだろう」

「……ありがとうございます」

受け取ると、湯のにほんのし梅干しのがした。胃の底がを帯びて、固まっていた胸の奥が痛む。

「警察の聞き込み班は、側の宅をもう巡することになった。裾の雑林は、消防団が没まで見てくれるそうだ」

野寺さんは壁に貼られたきな宅図を指さした。 黒マジックで目状に区切られた町内の図には、とりどりの蛍ペンで斜線が引かれている。

「今の捜索範囲は、このC区とD区だ。側の沿いはが悪い。君が歩くには危なすぎるから、の佐藤さんたちにってもらった」

「野寺さん、私にも配らせてください。じっとしていると、がおかしくなりそうで」

私が元のチラシを抱え直すと、野寺さんは困ったように目尻の皺をめた。

その差しは、血のつながらない親戚の老のように温かく、慈に満ちていた。

「母さんの気持ちは痛いほどわかる。だがね、遥さんが倒れたら、悠くんが見つかったに抱きしめてやれんだろう」

そう言って、彼は私の肩を骨張ったで軽く叩いた。

「は以いている。警察も巡回を増やした。この町で、目の届かない所なんてありはしないよ。私に任せて、し横になりなさい」

その言葉に、胸の奥で何かが崩れそうになった。

夫を事故でくし、見らぬだったこの町に悠とで越してきて。 寄りもなく、パート勤めで留守がちだった私を、町の々は何かと気にかけてくれた。そのにいたのが、いつも野寺さんだった。

悠が学の鍵を失くしたも、緒に側溝のをすくってくれた。 親世帯の就学助成の続きが分からなかったも、役所の窓まで同してくれた。

その野寺さんが、悠がいなくなった当の夜から公民館に泊まり込み、きで捜索計画表を作り、隣の自治会にまで協力を呼びかけてくれているのだ。 謝以のを抱く余など、どこにもなかった。

「……表の、県沿いの商だけ見てきます」

私は絞りすように言った。

「の学が通るはずです。あの子のランドセルやを見かけた子が、まだいるかもしれません」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: