みかん小説
本棚

"私の命を八千万円にした夫の末路" 第8話

たいの朝が、もうすぐやってくる。

のに戻り、脱所でを着替え、私は台所にった。

午。 もなく、彼らが起きてくる。

「……おはよう、真由」

階段から、修がりてきた。 着替えを済ませ、ネクタイを締めている。 その顔は気で、目のには黒いクマが張り付いていた。 もできなかったのだろう。

「おはよう、修さん」

私は振り返り、微笑んでみせた。 完璧な、いつもの従順な妻の笑顔。

「朝ごはん、もうすぐできるわよ。お噌汁、温め直すね」

修の喉仏が、ゴクリとした。

「あ、ああ……ありがとう。あのさ、真由」

「何?」

修は、台所の入りにち、私の顔を凝しながら、掠れた声で言った。

「今、パートのにさ……ちょっと頼みがあるんだ」

来た。

私は鍋のを見つめたまま、静かに背で彼の言葉を待った。

「母さんの実……箱根の叔父さんの、ってるだろ。あそこに、母さんが漬けた梅干しと、類を届けてほしいんだ」

箱根。

あの、急勾配のカーブが延々と続く、箱根の。

「今、これからになるからさ。だと荷物が濡れちゃうだろ? おの、せっかく昨俺が備したんだから、ドライブがてらってきてくれないか」

修のが、スラックスのポケットのでく握りしめられているのが見えた。

「箱根……。結構、いわね」

「速代はすから! 頼むよ、今にかなきゃいけない類なんだ」

広告

必だった。 私をあのに乗せ、あのへ送りすために、夫は必にをげていた。

「わかったわ」

私はを止め、お椀に噌汁を注ぎながら、穏やかに言った。

「そこまで言うなら、ってくるわね。修さんが、せっかく私のために備してくれただもの」

修の顔に、堵と、激しい罪悪が入り混じった歪な表が浮かんだ。

「……ああ。気をつけて、けよ」

「ええ。絶対に、気をつけるわ」

私はお椀を膳に並べた。

湯気のから見える修の顔は、すでに獄の入りにっていることに、まだ気づいていなかった。

午分。

居の古びた柱計が、苦しい鐘の音をつ響かせた。

は、予報通りの鉛の空。 窓ガラスを、パラパラとさな粒が叩き始めている。

「真由さん、朝ごはんまだなの?」

階段をドスドスと踏み鳴らしながら、がりてきた。 その顔には、隠しきれない異様な揚と、張り詰めた神経のトゲが骨に浮きている。

「今、焼き魚が焼けます」

私が答えると、は私の顔をジロジロと舐め回すように見つめた。 私の様子に、何か普段と違うところがないか。 怯えていないか。 異変に気づいていないか。

「……随分と落ち着いてるじゃないの」

「え? 何か変ですか?」

「別に。……修から話は聞いたんでしょうね。箱根のこと」

「はい。お義母さんの実へ、お荷物を届ければいいんですよね。

で」

の目が、細く吊りがった。

「そうよ。親戚付きいも嫁の事な役目なんだから、謝しなさい。……がひどくなるに、さっさとた方がいいわ」

言言に、く私をから叩きしたいという焦燥が滲んでいる。

「おはよう……」

階から、レナも起きてきた。 昨夜の派なメイクを落としきれていない、浮腫んだ顔。 スウェット姿のまま、だらしなく子を引いて腰掛ける。

卓に、焼き鮭、ほうれん、根の噌汁が並んだ。

誰も、箸をかさない。 修は鮭のを箸の先でぐちゃぐちゃにいじるだけで、もに運ぼうとしない。 は、計の針ばかりを気にしている。

異常な静寂。 カチ、コチ、と振り子の音だけが、鳴りのように響く。

「……ねえ」

沈黙を破ったのは、レナだった。 彼女はスマホをいじりながら、トーストを齧るでもなく、ボソリと呟いた。

「あのさ、兄ちゃん。今の夕方、ちょっと話があるんだけど」

修の肩が、ビクッとねがった。

「な、何だよ、急に」

「何って……おの話に決まってんじゃん。私のカード、もう限度額いっぱいでさ。今にどうしても、現で百万必なの」

「百万!?」 修が裏返った声をあげる。

「バカ言え! うちの会社の運転資だって、今どう回すか抱えてるんだぞ! おが勝に買ったブランド品の尻拭いなんて、できるわけないだろ!」

「はあ!? 何よそれ!」 レナがちがり、テーブルをバンと叩いた。

「兄ちゃんこそ、会社の名義で借ばっかり作ってママに泣きついてるくせに! ママだって言ってたもん、『もうしできなおが入るから、それまで待ちなさい』って!」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: